読み物
連載 北の息吹
2017年6月22日
120 ネズミの恩返し
120 ネズミの恩返し
写真家 中島宏章
アカネズミの子どもが僕の指の上にチョコンと乗っています。このネズミは、道路脇の側溝に落ちてしまっているのを僕に助けられたのでした。
側溝というのは、カエルやサンショウオ、昆虫たちにとってこの上なく厄介な構造物です。一度落ちてしまったら最後、なかなか這い上がることはできません。動物たちもきっとパニックでしょう。どこまで行っても垂直の壁が高く立ちはだかっているのですから。
このアカネズミが幸運だったのは、側溝の中に僕という人間がいたからです。何を思ったのか、アカネズミは僕の足を必死に登り始めました。僕のことを木かなにかと思ったのか、はたまたワラにもすがる思いだったのか。とにかく、アカネズミは僕のお腹辺りまで一気に登ってきました。慌てた僕はアカネズミを手に乗せ、しばらく可愛さを堪能した後、側溝の外へ逃してやったのです。未だにネズミからの恩返しはありません。