読み物
連載 北の息吹
292 生命と寿命
292 生命と寿命
写真家 中島宏章
お正月になるとよく目にする言葉が「寿」(じゅ・ことぶき)です。めでたい、長生きという意味があります。旧字体では「壽」と書きます。日常生活ではまず見ないほどレアで難しい漢字ですね。日本人って面白くて、この難しい漢字の覚え方ってのがあるのです。それは「サムライ(士)のフエ(笛)は1インチ(一吋)」です。今では吋がインチとは読めない人が大勢でしょうね。そこが歴史を感じさせてくれます。
ここからは動物たちの「寿命」にスポットを当てたいと思います。動物の寿命を語るうえで外せない本が「ゾウの時間 ネズミの時間(本川達雄著)」です。この本では、重い生き物ほど長生きだが、寿命が違っていても一生のうちに動く心臓の回数はゾウもネズミも同じだ!として大きな話題を呼びました。ゾウの体重は3トン、ネズミは30グラム。心臓が1ドキンする時間はゾウが3秒、ネズミは0・1秒。ゾウは70年生きて、ネズミは2年で死ぬ。だけど、どちらも心臓の動く回数は同じだというのです(15億から20億回といわれる)。これは、動物には寿命の長短があるようにみえて「一生を生き抜いた感覚」は同じだ、という科学的にも哲学的にも感動的な法則なのです。さらに驚きなのは人間にこの法則をあてはめると、寿命はなんと26年!そう考えたら27歳からはある意味では余生。現代の人間は桁違いに長寿なんですな(ちなみに縄文人の寿命は30歳だった)。余生と思えば、自分の人生、思いっきり生きてやろうと思います。
人間以外にも長寿はいます。哺乳類の中で最も長生きなのはクジラで100年から200年も生きます。ですが、クジラの体重は150トンもありますから、長生きでも当然かなって思っちゃいます。体重の割に驚異的に長生きなのは、コウモリです。コウモリは体重5グラムでも40年以上も生きます。鳥も長寿です。セキセイインコの寿命はたいてい7年くらいで最長20年くらいですが、大型インコのヨウムは70年も生きることがあります。野生だと生きれる時間は極端に短くなりシマエナガだと2年か3年ほどと言われます。ちなみに最も身近なペットの犬や猫の寿命は15年前後ですから、体重の軽いコウモリや鳥がいかに長寿か分かるでしょう。
寒い地方に暮らすコウモリは冬眠をするので、冬眠中は体温が下がり心拍数も極端に下がり、仮死状態のようになります。冬眠中は心臓の動く回数が少ないので、一生のうちに使い果たす心拍数が目減りしません。だからコウモリは長寿なのか?と思いがちですが、冬眠をしない南国に住むコウモリも長寿ですし、ちゃんと冬眠をするシマリスが長寿かというとそうではありません。さらに不思議なことにコウモリは老化しません。死ぬまで老化しないのです。そして死ぬまで病気もほとんどしないといいます。ウイルスに対する抵抗力もとんでもなく強く、ウイルスが体内に入ってきても何故か発症しません。現在のところ、コウモリはなぜ老化しないのか?なぜウイルスにやられないのか?なぜ長寿なのか?を世界中で躍起になって解明しよとしていますが、未だハッキリとしたことは分かっていません。
日本での平均寿命は、戦後と今では倍近くまで伸びています。いま日本で赤ちゃんが生まれると、そのうちの98%のこどもは40歳までは必ず生きるという計算です。ところが、人生が80年としても、 睡眠は27年、食事は10年、トイレには5年も費やし、残りは38年しかないと言います。そう考えると人生は短い。
むろん動物たちはそんなことも考えたりしないで「今を生きる」のみですから、人間とどっちが幸せなのかなぁ?なんて、考えたりしちゃいます。人間は過去に固執すれば悲しくなり、未来に気を取られると不安に襲われる「クセ」があるので、たまには動物たちにならって過ごしたいなと思います。