読み物
書籍紹介
2025年6月27日
ネガティブ・ケイパビリティ
答えの出ない事態に耐える力
帚木 蓮生 著
ネガティブ・ケイパビリティ
答えの出ない事態に耐える力
帚木 蓮生 著

ネガティブ・ケイパビリティとは、「すぐには答えが出ない状況や、どう対処すればよいか分からない事態に、じっと耐える力」を意味します。あるいは、「性急に理由や証明を求めるのではなく、不確かさや不可解さ、疑念の中にとどまることができる力」とも言えるでしょう。
小説家であり、精神科医でもある著者は、この概念に出会ったことで、「生きること」そのものが楽になり、医師としての仕事や作家としての創作活動にも、踏んばる力がついたと語っています。
本書ではまず、「ネガティブ・ケイパビリティ」という考え方を最初に提唱した詩人ジョン・キーツ、そしてこの概念の有用性に注目した英国の精神科医ビオンを紹介。彼らの思想的背景や概念の来歴を丁寧にひもときつつ、さまざまな分野でこの力がどのように活かされるかを語ります。
私たちの人生や社会には、どうにもならないことがあります。すぐに結論を出したり、過激な意見に飛びついたりせず、立ち止まって物事の本質を考え続けることが大切です。「前向きでなければ」と思い込まず、不安や疑問をそのまま受けとめて、「共感」や「寛容」の心で人や物事に向き合うことで、私たちは気持ちを少し楽に、しなやかに保つことができるのかもしれません。(亜)【朝日新聞出版・1430円】