読み物
書籍紹介
2025年7月11日
戦争のある場所には看護師がいる
川嶋みどり 他8人 共著
戦争のある場所には看護師がいる
川嶋みどり 他8人 共著

本書は、看護学者の川嶋みどり氏をはじめとする医師・看護師による共著。ウクライナの隣国での医療活動レポートや、中東での医療活動の様子が詳細に描かれており、戦争・紛争から始まった赤十字運動が現在も続いている現実を浮き彫りにする。
著者たちは限られた資材での治療現場や、助けることができなかった人々の事例を通じて、「医療は戦争と相容れない」と強調する。
特に注目すべきは、川原由佳里氏(日本赤十字看護大学教授)による太平洋戦争中の日本の看護師の状況に関する研究だ。最前線の兵士と横並びに看護師が配置されている写真をもとに、野戦病院ではなく最前線での看護活動を余儀なくされた経験を紹介。当時の証言を体系化し、看護師たちが置かれた過酷な状況を明らかにしている。
札幌市にある護国神社の片隅に「鎮魂」と書かれた石碑がある。樺太の太平炭鉱病院で勤務していた23人の看護師が大きな楡の木を囲んで集団自決し、看護師6人が亡くなった事件の慰霊碑だ。太平洋戦争では日本赤十字社だけでも1120人の看護師が犠牲になった。
川原氏が取材した人たちは「二度と戦争をしてはならない」と忠告している。平和の伝承は事実だけでなく、当事者の怒りや悲しみも含めて伝えていくことが必要だ。(岸)【日本看護協会出版会・990円】