読み物

　29歳のとき、専門学校の時の同級生が自然写真の登竜門とされる「田淵行男賞」という大きな写真賞を受賞したことが僕にとっては大いなる刺激になった。彼は僕と違って、専門学校を卒業する時に「写真家をめざす」と言って精進を続けていたのである。

　写真家になるには、やはり大きな賞をもらうことか！写真家として世に出てみたい！と同級生の偉業をきっかけに夢への思いが再燃した。ちょうどその頃、僕の人生にとって絶対に忘れることのできない日が来る。それは、長女の誕生である。自宅出産で迎えた長女の誕生の瞬間を目の当たりした感動の大きさといったらもう……人が生まれることの尊さと、美しさ、そして奇跡。カラダ全身が震えるほどの出来事だった。いわば天と地がひっくり返るほどであった。コウモリの特徴は逆さまであるが、まさに、それからの人生が何もかも逆さまになった。

　「俺の人生、こうしちゃいられない！」と、僕の中で何かが発火した。気づけば僕は、会社を辞めることを決め、写真家をめざそうと動き出していた。とはいえ、僕も人の親になった訳だし、３年たっても芽が出なければ写真家を諦めると決めた。