読み物

書籍紹介

2025年8月22日

となりの陰謀論
烏谷 昌幸 著

となりの陰謀論
烏谷 昌幸 著

 「陰謀論」とは、出来事の原因を誰かの陰謀によるものと、不確かな根拠にもとづいて決めつける考え方である。かつては「そんな馬鹿な」と会話の中で嘘に気づくことができた。しかし、ネット上で濃縮・拡散される陰謀論の影響は、もはや軽視できない。

 ありもしない作り話が既成事実のように積み上がり、認識の断絶を生む。陰謀論に満ちた集会では、集団的熱狂が精神的高揚をつくり出し、「自分たちの意に反する連中は排除せよ」と過激な言葉が飛び交い、暴力や脅迫、そして殺害に発展することもある。

 疎外された人びとの強い剝奪感や虚無感、格差や貧困の中で苦しむ人にとって、組織や社会のルールは自分にとって不利に働いているようにしか思えず、解りやすくて都合のよい話を信じてしまうのだ。

 トランプ政権は「民衆こそが正義」を掲げ、攻撃的な主張・態度をとった。参院選で躍進した政党にも共通点があり、「既得権益とたたかう姿」が国民の期待を集めた。しかし、真に困難を解決する展望を示しているとは思えない。
 陰謀論政治は、理不尽な権力行使を抑止するしくみが機能していない環境で生まれる。最大の惨劇は、ナチスによるホロコースト。少数の陰謀論者の企てと恐怖政治が、国民に「何も考えない方がよい」という無言の服従を強いてきた。ポピュリズムの暴走にも監視の目が必要だ。
(ひ)【講談社現代新書・990円】

読み物シリーズ・講演