読み物

書籍紹介

2025年9月26日

森越智子 著
Garden 8月9日の父をさがして

森越智子 著
Garden 8月9日の父をさがして

 函館市在住の作家、森越智子さんが今年、長崎の被爆二世の視点から原爆の惨禍を伝える小説を出版した。主人公が長崎への原爆投下日に、父がたどった足跡をさがす物語。 長崎を歩き、手がかりが途切れそうになると、 主人公を手助けする人が現れ、徐々に父の足取りが明らかになっていく。

 まるで誰かに導かれるように。「ぼくの背中を押すのは、 父さん、あなたですか」主人公は思わず、亡き父に尋ねました。「ぼくがいつか、こうして父さんの姿を捜すことを望んでいたのか」と。

 この一文を目にして、胸にこみあげるものがあり、しばらく読むことができなくなった。

 私の父は満州に出兵し、そこで終戦を迎えた。ソ連軍や、中国・朝鮮の人たちから逃れて大陸をさまよい、1年あまりたって日本に引き揚げた。このときに何があったか話さず、父は亡くなった。ただ、「戦友」 という歌を聴いて涙ぐむ父は、家族にもいえない辛い体験を抱えていたと思う。そんな父と重なり、感情がこみあげてきた。「戦争を知らない私たちは、当事者の痛みや体験を共有することはできないが、想像する力がある」と森越さんは語る。

 想像力を持って自分事として考える。それをバトンのようにつなぐことが、 戦争抑止の力になる。それが私たち「戦争体験二世」の役割だとこの本は教えてくれる。(堀口信)【童心社・1800円】

読み物シリーズ・講演