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書籍紹介
2025年11月14日
豊下楢彦 著
「核抑止論」の虚構
豊下楢彦 著
「核抑止論」の虚構
今年の広島平和祈念式典で広島県知事が「核抑止はフィクションである」と発言し、注目を集めた。本書はまさにその言葉を裏づけるように、核抑止論の虚構性を多角的に論証している。
著者は、アメリカとソ連を中心とする核保有国の政治史をたどりながら、核兵器が非戦闘員を含む無差別大量殺戮であり、国際人道法にも反する非人道的兵器であると指摘。また、核保有国が自国の核を正当化しつつ、他国を非難するという二重基準を厳しく批判する。さらに、核兵器はむしろ国際秩序を不安定化させる要因になっていると明らかにしている。
トランプ大統領は同盟関係よりも二国間の「取り引き」を重視する。これが成立すれば昨日の敵はたちまち友となる。こうしたトランプ体制の下で米国の核の傘に依存している日本の姿勢に著者は警鐘を鳴らす。
では日本はどうすべきか。仮に独自の核武装に踏み切れば、北朝鮮のようにNPT(核拡散防止条約)からの脱退は避けられない。他国もそれに追随するだろう。それは国際的な核不拡散体制の崩壊を招く。日本がこれまで維持してきた「平和憲法」と「非核三原則」を堅持し、緊張緩和と軍縮を国際社会に訴え続けることこそが、真の安全保障に繋がる。(荻)【集英社新書・1265円】