読み物
北の息吹【拡大版】
視点が変われば見方も変わる
第304回 シン・イソップ物語
写真家 中島宏章
視点が変われば見方も変わる
第304回 シン・イソップ物語
写真家 中島宏章
新年がやってきました。突然ですが、最近の研究によると、脳は絶えず成長し続ける唯一の器官ということが分かってきました。そんな脳の成長に欠かせないのが「新しい考え方や価値観の受け入れ」だそうです。
さて、有名なイソップ物語について、今までと違う新鮮な解釈で読むとどうなるでしょうか?
その昔、鳥と獣けものが戦争を始めました。鳥軍に対してコウモリは「私は空が飛べるので鳥の仲間です」と言い、獣軍に対しては「私は毛が生えているので、獣の仲間です」と、その時々で都合の良く振る舞っていました。しかし、そのうちに「コウモリはどちらにも仲間だと言っている卑怯なやつだ!」と、鳥からも獣からも仲間はずれにされてしまいました…。
実はイソップ物語には、もうひとつ似たような話があります。
その昔、あるコウモリがイタチに捕まってしまいました。「俺は獣が大好物だ。食べてやる」とイタチが言うと「いや私は鳥ですよ、翼があって空が飛べますから」と言い、逃げることができました。
しかし、コウモリはまた別のイタチに捕まってしまいました。「俺は鳥が大好物だ。食べてやる」とそのイタチが言うと「いや私は獣ですよ。毛が生えているでしょう」と言って、また食べられずに逃げることができました。絶体絶命のピンチの時はコウモリのようなトンチが自分の命を守りました…。
なぜか日本では、前者の「裏切り者にはなるなよ」という教訓のイソップ物語だけが有名になっているのです。ちなみに、生物学的にはコウモリはれっきとした獣(哺乳類)です。哺乳類の中で唯一飛翔することができ、鳥よりも飛翔能力に優れている場合もあるくらいです。
イソップ物語でも特別に有名なお話が「アリとキリギリス」ですね。
キリギリスは夏からずっと毎日楽しそうに遊んで歌い続けているだけ。一方のアリは遊ぶこともせず、冬に備えて食料をせっせと集めて蓄えていた。秋になり、冬が近づくとキリギリスの食べ物はどんどん減り続け、そのうち飢え死にしてしまいました…。
教訓としては、真面目にコツコツ働くことの大切さ、先のことを考えず、その日暮らしは良くない、という戒め…でしょうか。
実は、もともとのギリシャの原話では「セミとアリ」でした。ところが、物語が伝わった先の北ヨーロッパにセミが少ないため、キリギリスになったそうです。いずれにせよ、キリギリスもセミも、鳴く虫の代表ですよね。キリギリスは生物学的なことを言うと、秋が終わる頃にはみんな死んでしまいます。そうなのです。どっちみち冬まで生きられないのです。彼らは短い自分の命を知ってか知らずか、残りの時間の全てを使って鳴き続けます。まさに太く短く、全力で駆け抜けた一生は、羨ましいほど清々しく見えます。
セミも生物学的な習性を見ると、幼虫時代に土の中で6年も7年も生きています。もう十分に長生きしてるんですよね。その自分の人生の最後に地上で大騒ぎをして大きな花を咲かせるのですから、実に豪快な一生と言えます。
一方のアリは、食料を蓄えると言っても女王アリとその子どもたちの為で、自分の為ではありません。その女王アリでさえも、卵を産むマシーンと化して不眠不休で卵を産み続ける一生なのです。そう考えると、なんだかアリのほうが可哀想に思えてきます。
環境問題や社会問題など、私たちの世界では目まぐるしくいろいろな問題が巻き起こっています。私たちはそれらの問題について、すぐに正義と悪を切り分けてしまいがちです。でも、どんな問題にも「違った側面」が隠れているはずです。
悪と思っていたら、こっちから見たら正義だった…なんてことだらけなのです。いろいろな人の立場や意見に気付けるような脳の成長をしていきたいですね。