現場から
事例を学び続け
十勝勤医協 「月間」終了後も困窮事例を共有
十勝勤医協 「月間」終了後も困窮事例を共有
民医連十勝ブロックは昨年春から「推進月間ニュース」を、11月からは「共同デスク」を毎週発行し、各職場の事務長や課長が持ち回りで患者・利用者の事例や地域の活動などを紹介しています。
「共同デスク」は1月25日までに8号を発行しています。喘息の方がコロナ禍で仕事を失い、自立支援センターに再就職の相談をしたところ、相談員から無料低額診療をしている帯広病院を案内されて治療を再開できた事例や、中断患者さんの事例検討会をしたあじさい薬局のとりくみなどを紹介。職員がさまざまな情報を共有しています。
帯広病院の小田原剛事務長は、「昨年の秋の大運動月間で貧困と格差が広がっていることを実感しました。月間が終わっても私たちのアンテナを高く保ち続ける必要があると感じ、職場で遭遇した事例を中心に、事務の役職者が発信していくことにしました。とくに医療や介護にたどり着けない方々に対しても目を向けて、困難を抱えた多くの人々に寄り添う活動をすすめていきたい」と思いを語ります。
救急患者の受け入れ先がみつからない
コロナ禍のもと、厳しい救急医療事情がわかる事例も紹介されています。
3年前からデイサービスすずらんを利用している松本貴子さん(70代・仮名)は認知症状が進行し、一緒に暮らしている夫と娘さんやデイのスタッフを叩くようになりました。かかりつけ病院である精神科の主治医は介護施設への入所を勧めましたが、夫は「最期まで妻の面倒をみるのが私の役割」と在宅介護を強く希望します。しかし、娘さんはうつ病などがあり、自宅での介護は難しい状況です。
12月30日に夫から電話で「今日のデイサービスは行ける状態でないので休ませたい」と連絡がありました。状況を聞いた村上あゆみ主任は急遽訪問しました。松本さんは向精神薬の影響で活動量が低下して寝たままの状態となり、食事や水分を摂れず、声をかけても返事もできないほど弱っていました。発熱もあり喉に痰がからみ、酸素濃度が低下しています。このまま年を越すことは難しいと感じた村上主任は、すぐに救急車を呼びました。
救急車に同乗し、救急隊員に状況を説明する村上主任。その間、救急隊員は受け入れ先の病院を探します。発熱があるため、かかりつけの精神科や地域の内科病院には受け入れを断られてしまいます。救急隊員は「24時間365日受け入れてくれた町内の病院がコロナの影響で休業してからは、救急搬送の受け入れも発熱がある場合は拒否されることが多い」と話します。隊員の粘り強い交渉の末、帯広市内の当番病院で診てもらえることになりました。
村上主任は、「なかなか受け入れ先がみつからず、救急車の中でヤキモキしました。救急隊員はこうしたやりとりを毎回うんざりするほど経験し、医療体制の厳しさに困り果てている様子でした」と話します。
松本さんは誤嚥性肺炎になり、帯広市内の病院に入院しましたが、在宅に戻るのは難しい状態です。
救急車内で隊員のやりとり聞いていた村上主任は、「いのちが危険な状況なのに医療施設がなかなかみつからない、いのちの選別がおこなわれている現実を目の当たりにして、『ひっ迫』ではなく、『医療崩壊』していると感じました」と話します。この事例を多くの人に知ってもらいたいと、「共同デスク」や「友の会ニュース」に自ら記事を書いて投稿しました。「今の状態が当たり前になってはいけないと思います。いろいろな事例を知って、自分たちが民医連職員としてどう考えて行動するかが大事だと思います。そしてコロナが一日も早く終息し、安心して医療が受けられようになってほしい」。