現場から
患者さんの日常にふれて
ケガをしても畑に出る理由とは?
道北勤医協 一条通病院 気になる患者訪問
ケガをしても畑に出る理由とは?
道北勤医協 一条通病院 気になる患者訪問

「これは畑仕事じゃないから」―。そう言って毎日畑に向かう北村清吉さん(80代・仮名)は、ときどきケガをして、道北勤医協一条通病院の整形外科外来を受診します。同居の家族や医師が止めても畑に出続ける北村さんのことが気になり、看護師たちは訪問することにしました。(渋谷真樹・県連事務局)
旭川市近郊で娘さん家族と暮らしている北村さん。毎日必ず畑に出て、趣味の野菜作りをしています。しかし、ノコギリやカマで手を切ったり、転倒してケガが絶えません。
そのたびに病院へ付き添う家族は、「畑仕事をやめて、デイサービスに通ってほしい」と北村さんにお願いします。一条通病院の医師も、畑仕事は危険だとアドバイスしました。北村さんは、「畑に行くのはやめられない。デイに行くよりも体力がつく」と言います。
反対されることを嫌がった北村さんは、家族が居ないときに畑へ出て、ケガをしても言い出せず、ベッドを血で汚してしまうようになりました。
「外来の短い時間では患者さんやご家族からお話を十分に聞けません。生活背景にふれることで見えてくることがあるのではと思いました」と、看護師の西谷明美さん。訪問看護師とともに自宅を訪ねました。
病院から車で約30分。澄んだ空気と広がる田園風景の中に北村さんの家はありました。そのときも北村さんは腰を曲げて野菜作りの真っ最中でした。西谷さんは、庭先の小さな家庭菜園を想像していましたが、その大きな規模に驚きました。
北村さんは笑顔で西谷さんを作業所に案内しました。薪ストーブや冷蔵庫、イスなどが備えられ、冬も快適に過ごせる居心地のよい空間でした。畑は北村さんにとって、まさに自分の「居場所」だったのです。
畑や作物の話、昔のことを上機嫌に語り、採れたての野菜を「これも、これも」と持たせてくれました。「ケガをしたときは隠さずに教えてくださいね」と声をかけると笑顔で頷き、またすぐに畑へと戻っていきました。
「病院の外来に来る患者さんは、どうしても『お客さん』になりがちです。でも自宅ではリラックスして、たくさん話してくれました。畑は北村さんにとって、食事や家事と同じように日常の一部。畑も自分の部屋のような感覚なんですね」と西谷さん。畑仕事をやめさせるのではなく、どうすれば安全に続けられるかを一緒に考えることが大切だと気づいたと言います。
それから1年、北村さんは大きなケガをしていません。「多くの人が気にかけていると感じて、本人も気をつけているのかもしれませんね」と西谷さん。今回の訪問を通じて、「一人ひとりの患者さんの人生には病院では見えない日常の生活があると実感しました。病院の経営は厳しくて大変だけれど、すべての患者さんの日常生活や背景を想像することは忘れないようにしていきたい」と話します。