現場から
今の私にできることを
勤医協苫小牧病院 似顔絵で笑顔に
勤医協苫小牧病院 似顔絵で笑顔に
「この先生、よく似てる!」「すごーい!誰が作ったの?」―。健康まつりで並べられた小さなバッジに、患者さんたちの顔がほころんでいった。勤医協苫小牧病院・医事課の伊藤裕季子さんは、その反応が何よりも嬉しかった。ちょっとしたその表情、雰囲気まで伝わるイラストが、患者さんの心を明るく照らしている。
12年前、外来クラークとして働き始めた頃、大きな声を出して怒る患者さんが怖かった。しかし、その奥には、不安や寂しさが隠れていたことに気づく。丁寧に向き合い、話を聞くと怒鳴られなくなった。
説明に「はい」と返事をしても理解できていないときは、表情を読み取りながら繰り返し伝えた。耳が遠い、独り暮らし、生活が不安定──SVS(ソーシャルバイタルサイン)の聞き取りから背景が見えるたび、その人生にそっと触れたように感じた。患者さんの近くで寄り添うことができる。それが嬉しくて、気づけば仕事が大好きになっていた。
ある朝、定期受診の患者さんが肩で息をしながら車いすで来院した。伊藤さんは車いすを押し、処置室へと急ぐ。だが、あいにくベッドはすべて埋まっていた。
「ここで、もう少しだけ待っていてくださいね」
車いすに座ったままの患者さんに、そう声をかけるしかなかった。
その後、患者さんが亡くなったと聞いた。
「ベッドに寝かせてあげられなくてごめんなさい」。
霊安室で頭を下げた。涙は止まらず、胸の奥で「気づけたはず。もっと何かできたはず」と、悔しさが込み上げてきた。
落ち込んでいたとき、院内の掲示板に目が止まった。
「歴史があって、今がある。優しさを忘れないでほしい――」
『苫小牧病院連絡報・なかまプラス』に記された、宮崎有広院長(当時)の言葉だった。短いその一文が、塞ぎ込んでいた心に灯をともした。今もその言葉を机にしまい、支えにしている。
3年前、医事課へ異動した。入院係となり、患者さんと直接顔を合わせる機会は減った。それでも思いは変わらない。
「今の場所で、私にできることは何だろう」
そんな時にふと思い出したのは、小学生の頃から夢中になった図工や絵。 趣味で続けてきた手芸やトールペイント、そしてプラ板で作る小さな作品たちだった。
そこで、医師や職員の似顔絵バッジを作り、健康まつりで並べてみた。
「売れなくてもいい。誰かが笑ってくれたら」
そんな思いだった。
「これカワイイね」。作品を囲む輪が広がっていった。
似顔絵は相談会の資料や在宅案内のポスターにも使われ、往診患者へ贈ったアクリルスタンドは涙を浮かべて喜ばれた。
「好きなことを認めてもらえて、誰かの役に立てる。チームの一員となることが本当に嬉しかったんです」
患者さんと直接話す時間は少なくなっても、寄り添う気持ちは伝えられる。宮崎医師の言葉を胸に、伊藤さんは今日もペンを握る。「優しさを忘れずに」。その思いで、小さな似顔絵に命を吹き込む。
「入院係でも、イラストで患者さんとつながれます。どこにいても、自分にできることを見つけられると思うんです」
思いを込めて描いた一枚一枚の似顔絵が、誰かの不安をそっと和らげる。伊藤さんの「寄り添う心」は、これからも続いていく。
(渋谷真樹・県連事務局)