ムーヴメント
医師増やして地域医療を守る
問題は「医師偏在」ではなく「医師不足」
問題は「医師偏在」ではなく「医師不足」
現在の医師数について日本政府は、「問題は医師数が足りないのではなく、医師が地域、あるいは診療科によって偏在していることが原因である」とした見解に立ち、医師数を抑制したうえで医師偏在是正に向けて総合的な対策をすすめようとしています。しかし問題は「医師不足」にあります。全日本民医連は、「80―80 まやかしの『医師偏在』」を作成。日本の医療の本当の姿を伝え、医師と医療を守るための提言をおこなっています。
これまで日本の医療は、医師の自己犠牲的な長時間労働などによって支えられてきました。
2024年4月から施行された「医師の働き方改革」では、これまで制限のなかった医師の時間外労働は月80時間まで、宿日直は月5回までと制限が設けられました。これは医師の厳しい労働環境を改善することを目的にしていますが、不足している今の医師数でこの制限を守るためには、多くの医療機関で診療体制を縮小しなければなりません。これでは地域医療を守ることができなくなります。
政府は、医師数はこの10年間で4万人増加していることを根拠に、「医師不足」を否定し、「適切な配置にすることで医療供給は間もなく均衡する」と主張。「医師数を抑制しなければ医療費が増大し、国の財政を圧迫するため、今の医療制度を守ることができない。だから医師偏在を是正すべき」と世論を誘導しています。しかし、医師が増加したのは、医師の引退を80歳にすることなどを前提としたもので、地域医療を守るためには医師増員が必要不可欠です。
全日本民医連がパンフ作成
こうした政府の「医師偏在」論に対して、全日本民医連はパンフレット「80―80 まやかしの『医師偏在』医師不足の解消を」を作成しました。医師の自己犠牲が前提で「医師の需給は充分である」とする政府の姿勢に対する怒りや憤りが込められています。
パンフ作成のきっかけは、医学生たちとの対話でした。いま医学生は、教授から「いずれ医師は過剰になる。地域の偏在と診療科の偏在の問題」と教えられています。そして医学生からも「医師不足を実感できない」「美容整形などは人気なのでバランスが必要」「医学部の定員を増やしたら医療の質が下がるのではないか」「医師が余ったら給与が減るのでは」「医師が増えると医療費が増える」などの疑問が寄せられています。
パンフ作成に関わった北海道民医連・医師部長の本間倉一郎さんは、「医学生たちから話を聞くうちに、医学生に限らず医療従事者や地域の方々に日本の医療の本当の姿、正確な情勢を伝え、医療を守るために何が必要か、どのようにとりくむべきかをみんなで考えていくことが必要と考えました」と話します。
パンフでは、「医師は本当に足りている?」など8つのQ&A形式で、①OECD加盟国平均にするためには13万人の医師増員が必要。②偏在指標を見ると、どこにも偏在していないことがわかる。③将来的に医師が余ることはない。政府は、年間の時間外労働960時間という過労死水準を前提に「余る」と言っている、などと「医師偏在論」の誤りを指摘しています。
本間さんは、「必要な医師数とは、患者のいのちと健康が守られるような医療体制を維持できることです。先進国の標準的な医療水準を担保するため、自己犠牲的な働き方ではなく、適切な研修や研鑽、研究が十分におこなわれる環境が必要です。医師が健康でやりがいをもって働ける医師数が必要です」と話します。職場や地域でパンフレットを使って学習会をすすめていきましょう。
全道の医師にパンフ送付
「80-80パンフレット」を「医療崩壊を防ぐための医師増員を求める請願署名」用紙とともに、全道950人の医師に送付する作業をすすめています。