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書籍紹介

2021年8月27日

おもかげ/地下鉄に乗って

おもかげ/地下鉄に乗って

 「おもかげ」では、エリート会社員として定年まで勤め上げた竹脇正一が、送別会の帰りに地下鉄の車内で倒れ意識を失う。その意識を失っている最中に見る「夢?」の中で、過去の出来事が呼び起こされる。人は亡くなる直前に走馬灯のように一生が見えるという話があるが、意識を失った正一に不思議なことが起こる。それは、自身の出自にもおよび、孤児として育てられた自分の姿と戦後の混乱期。
 「おもかげ」の姉妹作といわれる「地下鉄(メトロ)に乗って」は、「おもかげ」の20年以上前に発表され、吉川英治文学新人賞を受賞した作品。地下鉄の階段を上がると過去の世界にタイムスリップ。ここでは戦後の混乱期、闇屋で財をなす父親の姿を見いだす。「おもかげ」では、母の姿を見いだし、対をなしている。
 三島由紀夫に傾倒し、自衛隊に入隊した経験を持つという作家、浅田次郎。その後、もともとめざしていた作家になろうと除隊。今回紹介した作品は、二度と戦争をしてはいけないというメッセージが込められているように思えた。(道)【講談社文庫・おもかげ924円/地下鉄に乗って792円】

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