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認知症と向き合うために 民医連に求められていること

2018年1月1日

認知症サポート医・伊古田俊夫医師に聞く
聞き手・鈴木和仁医師

 認知症患者は2025年に全国で700万人を超えるといわれています。私たちはどのように対応すればいいのでしょうか。認知症サポート医として全国的に活躍している伊古田俊夫医師に、鈴木和仁医師がお話を聞きました。


伊古田医師









伊古田俊夫

1949年生まれ、1975年北大医学部卒。国立循環器病センター脳神経外科を経て勤医協中央病院脳神経外科科長、同院長、同名誉院長。著書に「社会脳から見た認知症」など















鈴木和仁
1961年生まれ、1986年旭川医大卒。日本プライマリケア連合学会指導医など。道北勤医協理事長、一条通病院院長、北海道民医連副会長

 




鈴木 認知症患者が増加する中、いま私たちがとりくむべき課題についてどのようにお考えですか?


伊古田 まずは本格的に認知症診療にとりくむことです。神経内科医や精神科医などの専門医がおこなう「認知症外来」から、一般医や総合医による「物忘れ外来」を重視することが大切だと考えています。


鈴木 それはどうしてでしょうか?


伊古田 専門医の「認知症外来」は、一単位で診る患者が数人程度に限られているため、たくさんの症例を扱うことができず、予約は半年待ちというところもあります。受診にたどりつくまでの患者さんやご家族の苦しみは深刻です。だから専門性ももちろん重要ですが専門医は限られていますので、一般医や総合医が認知症を扱い、1日でも早く診断・治療することが求められています。


鈴木 私も昨年10月から「もの忘れ外来」を始めたのですが、きっかけは認知症疑いの患者さんのご家族の「専門病院の診察は数ヶ月待ちで敷居が高い」という声でした。始めてすぐに北海道新聞旭川版で「内科医が『もの忘れ外来』」「初期認知症 気軽に相談」と紹介され、患者さんが増え続けています。


伊古田 すばらしいとりくみとして注目しています。


鈴木 日常生活で困難を抱える認知症高齢者の増加、その人たちを支える周囲の大変さなど、地域の様子が見えてきます。一般医が認知症を扱う場合、注意すべき課題はありますか?


伊古田 本来、精神科に行くべき患者が流れ込んできたときの対策をとっておくことと、困ったときはすぐに精神科医や専門職に相談できる連携を作っておくことです。専門医だけでなく地域包括支援センターやケアマネ、介護事業所などとの連携を構築しながら展開している道北勤医協型の「もの忘れ外来」は重要なとりくみだと思います。


鈴木 お褒めをいただきありがとうございます(笑)。


サポート医取得を


鈴木 厚労省は、「認知症初期集中支援事業」を来年度から各市町村で実施すると打ち出していますね。


伊古田 「認知症初期集中支援事業」は、認知症の症状によって「危機」が発生する前に「早期・事前対応」をおこなうもので、認知症に対する国家的プロジェクトともいえます。ここに民医連がしっかりと関わる方針をもつことが決定的に重要ですが、率直にいって周回遅れの状況です。今からしっかりと対策をとることが必要です。


鈴木 具体的にはどんなことが挙げられますか?


伊古田 来年度からすべての自治体で認知症サポート医や医療と介護の専門職からなるチームを作って、かかりつけ医への情報提供や必要に応じて専門医に紹介する役割を担います。「認知症初期集中支援チーム」と呼ばれ、認知症の早期から家庭訪問をおこない、認知症の人のアセスメントやご家族の支援などをおこないます。認知症では受診拒否、介護拒否など拒否症状を呈することがあります。家族は困り果てて疲弊しますが、認知症初期集中支援チームはそれを救うための施策です。ここに民医連の医師が関わることが重要ですが、そのためには認知症サポート医の資格が必須です。各法人で一人以上の認知症サポート医をつくりたいものです。同時に、各自治体のチーム活動の現況をつかんで積極的に協力していくことが重要です。


鈴木 私も認知症サポート医をとりましたが、道民医連ではまだ数えるほどしかいません。認知症に対応する医師の役割がますます重要になりますので、多くの医師がサポート医の取得に挑戦するよう呼びかけていきたいと思います。医師以外の職員や友の会の課題についてはどうですか?

「みんなの関わり」


伊古田 職員や友の会向けなどの学習会を積極的に開くことです。講師陣は認知症認定看護師や認知症ケア専門士、認知症サポート医などの「専門家」がいますので、大いに活用したらよいと思います。


鈴木 一般の職員や友の会員にとっては病気のことは難しいというイメージがあると思いますが…。


伊古田 大事なのは、精神疾患というより生活習慣病として位置づけるくらいの新たな感覚でとりくむことです。安心・安全なまちづくりの活動のひとつとして、みんなで関わっていくことが重要です。全国では、職員と友の会役員の全員が認知症サポーターになっている院所もあります。そうしたとりくみを大いに広めてもらいたいと思います。


鈴木 最近増えているのは高齢者の運転免許更新時の対応です。免許更新時に「認知症のおそれがある」

と判定された場合、医師の診断書が必要になりました。医師の判断で運転免許が取り上げられることになり、日常生活への影響が大きいので責任重大です。


伊古田 究極の目標は、75歳以上の高齢者が運転しなくてすむようなまちづくりをすることですが、当面は生活支援策として行政がタクシーチケットを給付するとか、通院や買い物のための乗合自動車を走らせるなど、できるところから始めることです。友の会の助け合い事業としてとりくむことも検討課題だと思います。


鈴木 医療機関に求められることは何でしょうか。


伊古田 従来の枠組みから一段レベルアップした相談機能を充実させていくことが重要です。先ほども触れた医療と介護の連携でとりくんでいる道北勤医協型の「もの忘れ外来」を民医連モデルとして普及したらよいと思います。また、2016年の診療報酬改定で「認知症ケア加算」が新設され、身体症状で入院している認知症の患者さんに対して多職種チームによる適切な介入をおこなうことが報酬に位置づけられました。院内でのチームづくりのほか、事故の補償問題など、組織的な方針を整備することも重要です。


鈴木 地域との関係では、どのようなことが求められていますか?


伊古田 増え続ける認知症高齢者にどう対応するか、支援の検討が急がれます。隣近所とのトラブルや車を運転しての徘徊、虐待行為、ゴミ屋敷や火の始末など、いくらでもあります。私たちは積極的に地域に出かけて(アウトリーチ機能)、状況をつかんで相談に乗り(コンサルタント機能)、ご家族や地域の医療・介護関係者など、周囲の人をつなげて問題解決につなぐ(コミュニティワーカー)機能を高めることが重要です。


鈴木 外来では、定期通院している患者さんの認知症が見逃されているという問題意識をもっています。誰もが安心して住みつづけられるまちづくりをすすめる民医連の最重要課題のひとつとして地域ぐるみで考えていかなければならないと思います。


伊古田 期待しています。


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