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書籍紹介

2025年5月30日

先住民アイヌはどんな歴史を歩んできたか
坂田 美奈子 著

先住民アイヌはどんな歴史を歩んできたか
坂田 美奈子 著

 全国には約1万7千人のアイヌが暮らしているという。2006年6月、衆参両院本会議でアイヌ民族を日本列島北部周辺の先住民族とすることを求める決議が全会一致で採択された。にもかかわらず、今の日本社会では、自らがアイヌであると公言しにくい状況が続いている。アイヌは日本社会において「いるのに見えない存在」であり続けている。

 「あなたの身近にアイヌはいますか?」という言葉から本書は始まり、アイヌの歴史の変遷が語られていく。明治政府は、北海道の住人を和人へと切り替える一方で、もともとの住人であるアイヌに対しては、言語、生活、生業の日本人への同化をすすめ、強制的に集落の移転や集住化をおこなってきた。アイヌ文化は、和人との緊張関係の中で形成されてきた歴史でもある。

 著者は、「同化政策を受動的な結果とみなすのは正確ではない。アイヌの生活スタイルの近代化、日本語の獲得は、並々ならぬ努力の結果である」と説く。日本語教育を受け、日本語を話す世代は、時の政府の予想に反して、アイヌの尊厳の回復を訴えるようになり、その精神は現代のアイヌにも受け継がれている。(剛)【清水書院・1100円(税込)】

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