読み物

書籍紹介

2020年8月14日

経済政策で人は死ぬか?
公衆衛生学から見た不況対策
デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス 著
橘明美・臼井美子 訳

経済政策で人は死ぬか?
公衆衛生学から見た不況対策
デヴィッド・スタックラー&サンジェイ・バス 著
橘明美・臼井美子 訳

 2014年に出版された本です。本書は、「政治とは大規模な医療にほかならない」というルドルフ・ウィルヒョーの言葉から始まります。そして2人の筆者は、「社会経済政策はどんな薬よりも、手術よりも、個々の医療保険よりも、人の生死に大きな影響を与える…(中略)…健康と社会環境は密接な関係にある」という結論にたどり着きます。
 筆者は、2008年の「世界同時不況」で危機に陥ったギリシャとアイスランドを比較しています。緊縮政策をとったギリシャでは国民の健康状態が悪化したのに対し、それを拒否したアイスランドの人々の健康状態は維持され、一部の指標は改善しました。こうした統計資料を丹念にひもときながら事実を明らかにしていきます。
 さらに、社会保障政策を適切におこなうと経済財政危機からの回復も早いことを明らかにしています。SDHの視点から、不況下での緊縮財政は健康にも景気にも有害であることを実証します。原題を直訳すると「からだの経済 緊縮財政はなぜ(人を)殺すのか」。コロナ後の世界のあり方が問われているいま、改めて読む価値のある一冊です。(吉)【草思社・2420円】

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