現場から
訪問しなければ 見えない事がある
道東勤医協 ねむろ医院
道東勤医協 ねむろ医院
道東勤医協ねむろ医院の外来看護師は、10年ほど前から休診時間中に患者さんの自宅を訪問し、思いや悩みを聞くとりくみを続けています。昨年4月〜今年3月には、ねむろ医院と、併設するデイサービス、居宅介護事業所、訪問看護ステーションの全職種がひとり暮らしの高齢患者さん160人を訪問しました。生活や家族背景、地域の問題を聞くことで、患者さんの置かれた状況を広い視点でみれるようになりました。さらに、国保未加入者などの状況を市に伝えて、医療が受けられるようにしています。 (渋谷真樹・県連事務局)
訪問を通じて職員が成長
「こんにちはメメちゃん、元気にしてた?」
2年目の外来看護師、高橋知奈さんは、日中ひとりになる林節子さん(84歳)を訪ねました。玄関で迎えてくれたネコのメメちゃんは、林さんにとって心の支えです。認知症予防にデイサービスに通うことを勧めましたが、一瞬もメメちゃんと離れたくないといいます。そこで、外来看護師が訪問して様子をみることにしました。
高橋さんは患者さんが話したいことをしっかり聞いてから、薬が正しく飲めているかを確認し、最後に認知症のテストをしました。
「訪問は必要だ」
高橋さんは入職したとき、外来看護師が訪問に行くことに少し驚いたといいます。しかし、自宅にいる患者さんは外来とは違った表情をみせることに気づきました。外来では「薬を正しく飲めている」と話していても、実際は飲めていなかったことなどが訪問してはじめてわかります。
最初は「何しに来たのさ」と訪問を嫌がっていた患者さんも、話をするうちにニコニコと笑うようになり、「ありがとう」と感謝されることも。
「緊張している患者さんに突然デリケートなことを聞いても恥ずかしがってしまいます。堅苦しくならないよう、家族の話や世間話をして、患者さんがリラックスしてから聞くようにしています」と高橋さん。1件に1時間、長いときは2時間かけて訪問します。
先輩看護師の吉田恵美さんは、「患者さんに聞くべきことを聞けるし、会話も上手。プロですよ」と後輩の成長を喜びます。
全職場で訪問し問題を共有
昨年度は外来看護師だけでなく、ねむろ医院と併設する3つの事業所が参加して、1年間で、ねむろ医院が把握しているひとり暮らしの高齢者世帯の8割、160人を訪問しました。
デイサービスでは、主に外来に通院している患者さんを利用につなげてきましたが、ケアワーカーから「私たちも地域に出て、デイを必要としている人をみつけたい」と要望が寄せられました。そこでデイだけでなく、検査技師も事務もすべての職場で訪問にとりくむことにしたのです。
たくさんの声を聞きました。
「海水温が高く不漁。出稼ぎに行く」「乗り合いバスでの通院、待ち時間が辛い」「老いた姿を見られたくない」「宗教の人しか話し相手がいない」。こうした声を「社会状況」「環境」「交通」など7つに分類し、問題をわかりやすくして全職員で共有し、引き続き外来看護師が気になる患者さんを訪問することにしました。
私たちの医療に欠かせない
吉田さんは、「訪問することで多くの住民とつながり、他の事業所や行政と連携もすすんでいます。職場全体で訪問する環境と体制を守ってくれるので、とても助かります」と話します。
外来を受診した患者さんは、訪問してくれた看護師の顔を探すといいます。ねむろ医院の高橋香織事務長は訪問行動の意義を話します。「地域の患者さんの生活や社会背景を知らなければ、自分たちの医療ができないと職員が理解していて、訪問したいと要求が出ています。人手もなく経営も大変ですが、経営問題でやる、やらないは考えていません。患者さんにとって特別な看護師がいて、その顔をみただけで安心するという信頼関係づくりは、私たちの医療に欠かせないものです」。
実態を行政に伝えて改善へ
「国保料が高すぎて払えない」「医療が必要なのに国保に加入していなかった」「資格証が発行され、治療を中断している」。訪問などで聞いた患者さんの声、地域の人々の困難事例を市の担当者に伝えて改善を求めています。現在、根室市では資格証がゼロに近づき、新規発行はおこなわれていません。国保滞納者に対する差し押さえも半減しています。
高橋看護師は訪問のとりくみを、9日に札幌市でおこなわれた「看護介護研究交流集会」の分科会で報告しました。(関連記事2面)
記念講演の中で講師の藤田孝典さんは、「患者さんの置かれている状況を知っている職員が、国や自治体、国民に広く伝えて改善させなければならない」と話しています。
吉田さんは、「地域に出て患者さんの思いを聞き、制度を変える。こうした民医連らしい活動に喜びを感じています。住み慣れた地域で安心して過ごしたいという患者さんたちを守っていきたい」と話します。