現場から

「私たちの役割がみえてきた」

2018年1月1日

特別企画 テレビ対談
青年医師が「地域医療」を語りあう

特別企画 テレビ対談
青年医師が「地域医療」を語りあう

 道南、道東で研修をしている医師、道北で研修を経験してきた医師にテレビ会議システムを使って、中央病院の松本巧医師が聞きました。地域研修の魅力とは? やりがいは? 研修を通して感じていること、今後やりたいことは? はてさて、どんな話が飛び出すことでしょう。

 

 

澁谷 仁美 (道東)
 2015年札医大卒。勤医協中央病院で初期研修、昨年4月から釧路協立病院へ赴任し、家庭医療、総合診療を学ぶ。

 

 

 

石部 正和(道南)
 2015年北大医卒、勤医協中央病院で初期研修、昨年4月に函館稜北病院へ赴任し、リハビリテーションを学ぶ。

 

 

 

奈良 智志
 2010年旭川医大卒。道北・一条通病院で初期研修。稚内・宗谷医院、一条通病院乳腺外科を経て、2015年に中央病院外科。

 

 


松本 巧
 2000年北大医卒。勤医協中央病院、札幌北区病院、帯広病院、神威診療所、道北一条通病院などを経て、2011年に中央病院運動器・リウマチ副センター長。総合診療指導医。

 

 

 

 

 

地域研修の違いは?


松本 今日はよろしくお願いします。澁谷先生と石部先生は中央病院から研修をスタートして昨年4月から地域で研修されていますね。どんなところに中央病院との違いを感じますか?


石部 中央病院では指導医に見守られながら自分で決断するように促されます。研修医の主体性を尊重した研修をさせていただきました。函館稜北病院では、主治医として自分の責任で決断して患者さんの治療方針を立てます。患者さんの退院後の生活、その先まで責任を持つことが大きく変わりました。患者さんに病状を説明する前に指導医に相談しますが、ある程度は自分で判断しなければならないので重みが違います。


澁谷 釧路協立病院に来て主治医としての責任を強く感じています。外来、病棟、訪問診療を担当していて、それぞれのところに受け持ちの患者さんがいます。中央病院では病棟だけで、外来や訪問診療は担当していませんでした。各科に相談できる専門の医師がいましたが、今は自分で患者さんの対応を判断しなければならないことが多くなりました。患者さんの命と生活に責任があることを重く感じています。


松本 地域で主治医としての重みを感じながら医師として踏ん張っていく。大変だけれど本当の意味での主治医としての学び、やりがいがあると思います。奈良先生は釧路協立病院と似た規模の道北一条通病院で初期研修を始めていますね。


奈良 一条通病院で困ったときは先輩の先生に相談していました。でも、自分のできることは限られているので、どうしても対応できない場合は他院に紹介しました。そのときに、それぞれ強みのある病院の診療科を考えるようになりました。


松本 初期研修の段階から他院との連携を視野に入れながら、自分がどこまで関わるのが患者さんや家族にとって良いことなのかと迷いながらやっている。その辺が大きな違いですね。奈良先生は稚内にも行きましたね。医療機関が限られた地域で診療所の役割は非常に大きいと思います。宗谷医院が地域に果たす役割をどのように感じましたか。

 

地域での役割とは?


奈良 宗谷地域で往診をしているのは宗谷医院しかなかったので、例えば市立病院に入院していたがんの末期の患者さんを自宅で看取る場合、私たちで診るしかありません。在宅医療での役割は大きいと思います。


松本 限られた医師たちで地域を支えているのだと思います。自分たちがこの地域を支えているんだということが見えやすいし、日々実感させられるのではないかと思いますが、大変なことはありませんでしたか。


奈良 宗谷に行って2週間は穏やかに過ごしていたのですが、地域の内科の開業医が倒れてしまい、そこの患者さんが宗谷医院にもたくさん来て1日200人来院しました。いきなり地域の試練がやってきました。そんな状況でも新しく関わることになった施設の職員と協力して看取りを始めたり、自分にできることを頑張りながら地域の変化を感じることができました。


松本 中央病院にいると自分たちの病院が地域や周辺の開業医にどのように役立っているのか、自分の役割が見えにくかったりします。石部先生は函館稜北病院が地域でどんな役割を果たしているのか、どのように地域に貢献しているのか見えることはありますか?


石部 函館稜北病院はリハビリテーションと在宅分野に力を入れているので、重症の患者さんや在宅調整が難しそうな患者さんが他の病院からも紹介されてきます。函館市は医療機関が比較的多いので、訪問をしている病院も回復期病棟もありますが、在宅は自分たちの役割の大きさを感じます。


松本 石部先生は今の環境で自分が変わったと感じることはありますか。


石部 患者さんの紹介はすごく多いし、地域での勉強会や病診連携などをかなり活発にしています。他の病院の先生方と話すことも多く、函館稜北病院の医師としてしっかりしようと思うことが多くなりました。このような気持ちが芽生えたのは今までと違っているところだと思います。


松本 3年目で地域のことをしっかりとつかんでいますね。澁谷先生は釧路で内科医として奮闘されていますが、道東勤医協、釧路協立病院の役割をどのように感じていますか。


澁谷 病院が地域に果たす役割が何かということを中央病院ではあまり考えたことはありませんでした。釧路に来て思うのは、本当に医療過疎で、いくつかの大きな病院だけでは患者さんを診ることができません。私たちに求められている役割は、急性期の段階を終えて家に帰る患者さんの生活を支えることです。入院治療が終わってADL(日常生活動作)や体力が低下しているので、自力で生活に戻れる患者さんは限られています。どうしたら患者さんが家で暮らせるのか、施設でどのようなサービスがあれば暮らしやすいのかと、すごく考えさせられています。

 

在宅医療の魅力は

 

松本 病気を診るだけでなく、病を抱えた「人」を観る。その人の生活を元に戻すことも全部やることが求められているわけですね。


澁谷 在宅医療もやっていますので、退院後の生活につなぎ、本人と家族の生活を支えていく役割を担っていると思います。患者さんが自宅や施設でいきいきと生活している様子、日常に戻っていく過程をみられることにやりがいを感じます。


松本 自宅に帰ることができるのは患者さんにとっても大きな喜びですね。


奈良 往診に行くと普段の生活の様子が見えるし、家族の中での役割も見えてきます。ご家族からも心配ごとや悩みを聞くと、普段の外来とは違う診療の手がかりがあり、面白いと思うこともありました。
石部 ずっと通院していた患者さんを往診に切り替えて、初めて自宅に行ったときの患者さんの表情を覚えています。病院でみる顔とは違っていきいきしていて衝撃を受けました。


松本 地域に出て患者さんの生活の場に入っていくのは本当に大事ですよね。患者さんや家族の思いをつかむには往診が一番かもしれないですね。奈良先生は宗谷医院での研修でどのようなことを学びましたか?


奈良 患者さんの生活背景を知ろうと診察のときに仕事の内容を聞いて、疾病との関連性を考えました。そうすることで疾病だけなく、患者さん全体に興味を持って診察することができるようになりました。
松本 奈良先生がいま専門研修している外科でも必要なことですよね。


奈良 どんなときでも必要で役に立つことです。外科を極める上でも地域で研修することは、決して回り道ではないと思います。松本先生が地域に出たときは、どんなときに成長したなと思いましたか。


松本 初めは自分がやらなければという思いはありましたが、みんなでやっていけば大抵の困難は乗り越えられると感じました。患者さんと接する時間が限られるので、職員が患者さんの思いを聞いてチーム全体の課題として明らかにして問題を解決していく中で、スタッフの力を信頼することが大事だと感じました。

 

職員に助けられます


松本 みなさんが地域でやってきて、スタッフから学んだことは何ですか?


奈良 宗谷医院の職員は地元出身の方が多く、患者さんの家族関係や仕事などの生活背景をかなり把握していました。受付の事務の方も地域の状況をよく知っているので相談しやすく、ありがたい存在でした。難病の患者さんを往診していたのですが、訪看スタッフが日常生活のスタイルを確立していたので、自分はそれをサポートするようにしました。患者さんをしっかり支えるご家族と周りの支援があれば、難病で医療の必要度が高い患者さんも自宅療養が可能だと感じました。


澁谷 釧路協立病院は常勤内科医が3人しかいないので、病棟で患者さんを回診できる時間が限られています。短時間で診察して指示を出さなければならないので、病棟スタッフの援助がなければ仕事が成り立ちません。本当にみなさんに助けられています。在宅では訪看スタッフが患者さんの情報を教えてくれます。以前、ある外来患者さんの家庭の状況が「気になる」と言うと、すこやかクリニックの看護師がその翌日に患者さんを訪問して家庭の情報を伝えてくれました。本当にチームで患者さんに関わり、支えていることを実感しています。


石部 函館稜北病院では、いろいろな職員と気軽に話すことができます。患者さんの治療方針はひとりで立てなければならないと思っていましたが、ここでは多職種で患者さんに関わり、退院支援もチームで検討しています。医師が中心ではなく、チームの一員として患者さんに関わり、治療方針を決めていくことが多いのでとても勉強になっています。患者さんの生活背景を含めて治療方針を考えることができるようになり、患者さんの見方も変わりました。そこが初期研修の2年間と大きく変わったところだと思います。


松本 地域の病院でスタッフや患者さんとの距離が近くなる中で成長していると感じているわけですね。

 

後輩へのアドバイス


松本 地域研修に不安を感じている医学生や後輩の医師もいると思います。どんなことを伝えたいですか?


石部 大きい病院にいると学べないことがいっぱいあります。地域で学ぶことは医師としても人間としても成長できるので、ぜひ地域に出てほしいと思います。


澁谷 家庭医療学の中では、患者さんの生活や背景を考えて総合的に判断していくので、今が一番勉強のやりがいがあります。地域の中で多職種に支えられていることを実感できます。


奈良 稚内では市内の医師・医療者が少ない状況で診療する難しさを感じました。まんべんなくできなければ地域に出られないと思っている初期研修医が多いと感じていました。不安はあるとは思いますが、今は一人で所長をすることもありませんので、ちょっと違う環境を見に行くというような感覚で、構えずに飛び込んでみるのもいいと思います。時には苦しい場面もあるかもしれませんが、職員が支えてくれます。地域の良い面や悪い面をみて学んでいけたらいいと思います。長い医師人生の中で、とてもいい経験ができると思いますので、積極的に行ってほしいと思います。


松本 地域で研修した医師が都市部に戻ってきて、後輩医師に地域の魅力を語って背中を押す。そして地域に行ってみようと思う医師が増えるというサイクルも大事です。そのことが地域医療の発展にも貢献できると思います。


奈良 微力でも地域の医療の力になると思いますし、そこで自分のカラーが見つかるかもしれません。またいろいろな意味で出会いがあるかもしれません。


松本 みなさん、また明日から大切な役目が待っていると思いますが、引き続き充実した生活を送っていただきたいと思います。これから地域をめざす研修医の励みになりますので、楽しみながら研修してください。私と奈良先生は札幌という地域で頑張ります。そして、初期研修医を地域医療研修に送り出しますので、地域の魅力を注入してください。ありがとうございました。

 

医療医師・医学生地域・友の会読み物