現場から

「カプサイシン」で嚥下障害改善

2018年1月1日

特別養護老人ホーム
もなみの里

特別養護老人ホーム
もなみの里

食事の様子、嚥下機能を観察するミールカンファレンス

 唐辛子で肺炎予防⁉ そんなことができるのでしょうか。札幌南勤労者医療福祉協会・特別養護老人ホームもなみの里では入居者に唐辛子の辛味成分「カプサイシン」を使い、誤嚥性肺炎が減っています。



 高齢になると、食べ物を上手に飲み込む力が弱くなります。飲食物や唾液が誤って気管に入ってしまうことを「誤嚥」、これが原因になる肺炎を「誤嚥性肺炎」といいます。予防するためには、適度な大きさ、硬さのものを落ち着いて食べ、気管に入った飲食物を出す「咳反射」を高めることが必要です。


「使う価値はある」
 勤医協札幌病院と西区病院の耳鼻咽喉科の医師が関わって、もなみの里の入居者にカプサイシンを含んだフィルム(オブラート状のシート)を使うことにしました。このフィルムは、嚥下反射機能を改善するサプリメント(食品)として一般に販売されています。果実の香り付けがされており、辛さは感じません。フィルムを頬の内側に貼り、溶かしてから食事することで嚥下反射が向上することが報告されています。
 しかし、認知症を抱えた高齢者が長期間継続して使用した臨床データはありませんでした。今石寛昭医師(西区病院)と山地誠一医師(札幌病院)は、「食品なので安全性は高い。使う価値はある」と考え、嚥下機能障害がある入居者を対象にご家族にも説明し、希望者に使用しました。
 同時に、医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士、言語聴覚士、栄養士、ケアマネジャー、介護職員が定期的に入居者の食事を観察。それぞれの視点で姿勢や食器、ひと口の量、咀嚼などをみて、改善すべきことを出し合うミールカンファレンスをおこなっています。


肺炎の発症数が減少
 もなみの里の入居者の誤嚥性肺炎は2014年度に10件ありましたが、とりくみを開始した2015年度に7件となり、2016年度は4件にまで減少しています。「はっきりと結果が出ているので驚きました。嚥下の働きが良くなっていると思います」と山地医師は評価します。
 2015年から43人が1ヶ月以上フィルムを使用し、内視鏡を使った検査で嚥下機能評価(兵頭スコア)をしています。これまでに何度も肺炎で入退院を繰り返していた77歳の男性は、フィルムを使ってから肺炎を起こさなくなり、嚥下機能評価の数値、日常生活動作も向上しています。
 山地医師は、「栄養状態が良くなれば抵抗力も高まります。嚥下障害の改善に私たちも力を合わせてとりくみ、入居者さんの命と健康を守っていきたい」。ケアマネジャーの西澤江利さんは、「入居者さんが入院しなくなったと、ご家族からも喜ばれています。周知されていないので、介護事業所などに広まるといいですね」と話します。

 

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