現場から

悩まずに受診してほしい

2018年3月21日

乳がん学会で無低活用を呼びかけ

勤医協中央病院乳腺センター

中央病院乳腺センターの鎌田医師と今井さん

 勤医協中央病院乳腺センターの看護師・今井由希さんは、無料低額診療制度(無低制度)を利用した乳がん患者の経済的背景に着目し、受診への影響を調べました。長期間受診をがまんして悪化した事例を全国の乳がん学会で発表し、無低制度の活用を呼びかけました。(渋谷真樹・県連事務局)


 しこりに気づき、乳がんの検査をしたいと思い悩みながらも、長い間がまんしている方がいます。中央病院看護師の今井由希さんは、お金の心配をせず、まずは早く受診してほしい。そのためにも無低制度を一人でも多くの方に知ってほしい」と話します。
 経済的困難を抱えている人ほど、治療を開始するまでに長期間悩み続け、病状が悪化しているのではないかと考えた今井さんは、カルテの記録を調べ、無低制度を申請・利用した原発性乳がんの症例を集計しました。すると、ある傾向があることがわかりました。


胸にしこり
受診したいけれど…
 夫の収入だけでは暮らせず、パートをしながらなんとか暮らしていた女性は、あるとき胸のしこりを感じました。腰痛などもあり、体調は徐々に悪化していきますが、医療費を考えてしまい、通院をためらいます。しばらく不安を抱えたまま仕事を続けましたが、しこりは日に日に大きくなり、体力も限界になりました。女性は意を決して札幌病院に駆け込みました。
 このように、医療費を心配して治療が遅くなる事例がいくつもありました。今井さんは、貧困と病状を関連づける資料を探すと、乳がん患者の経済的背景にふれている資料しかありませんでした。さらに、自覚症状があらわれてから受診するまで悩んだ期間について、無低制度利用者と利用していない人の関係を比較したものもないことがわかり、看護師長や乳腺センター長の鎌田英紀医師に相談し、全国の乳がん学会で紹介することにしました。


受診抑制の可能性
 乳がんに気づいてから受診するまで、収入の違いで差がどれほどあるのか、2011年7月~2016年6月の5年間のカルテを調べました。自覚症状が出てから受診までの期間をみると、無低を利用していない患者さんが平均1ヵ月で受診しているのに対し、無低制度利用者は平均1年と、大きな差があることがわかりました。また、受診時の腫瘍の直径は平均22・0㍉に対して、無低利用者が36・5㍉と、より進行していることがわかりました。
 今井さんは2017年の全国乳がん学会のポスターセッションでこうしたデータを発表し、「検査・治療費によって生活がより困窮することを心配して、受診が抑制されていた可能性がある」として、無低制度の活用を呼びかけました。


お金の心配せず
受診してほしい
 長い間病気に悩んでいた患者さんは、治療を始めると安堵の表情をみせると今井さんはいいます。「治療に対する不安よりも、やっと治療できることにホッとしている気持ちが強いのだと思います。医療費に悩まず、まずは相談してほしい」。
 市内の医療機関に無低制度の案内パンフレットを郵送しているという鎌田医師は、「医療関係者でも無低制度があることを知らない人が多いので、まずは身近なところから広めていきたい」。後藤剛医師は、「私たちだけではなく、国や自治体も積極的に制度を紹介してほしいですね。本来は、国が国民のいのちと健康を保障するべきです。でも実際はそうはなっていませんので、一人でも多くの患者さんを早期治療にむすびつけたい」と話します。

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