現場から

患者の背景を知りたい

2019年1月1日

広がる「SVS」のとりくみ
ソーシャル・バイタル・サイン

 血圧や脈拍、体温、呼吸などの生命の基本的な情報・兆候を「バイタルサイン(VS)」といいます。北海道勤医協の堀毛清史前理事長は「生活背景・環境や人間関係、地域とのつながり、社会的な側面なども基礎的な情報である」と提唱し、「ソーシャルバイタルサイン(SVS)」と名付けました。この考えをとり入れて、患者さんや家族に聞き取った情報を診療に活かしている3院所のとりくみを紹介します。(渋谷真樹・県連事務局)



緊急連絡先を教えて
勤医協苫小牧病院
 いち早くSVSの聞き取りを始めたのは北海道勤医協苫小牧病院です。外来で意識不明になった患者さんのご家族に連絡をとる際に苦労したなどの経験があり、患者さんに何かあった場合の連絡先や、患者さんをとりまく社会的背景を把握する必要があると感じていました。
 2013年から、65歳以上で介護保険サービスを使っていない、独居、または夫婦2人ぐらし(子どもが市外在住)の患者さんを対象に、緊急連絡先や家族構成、友人、頼りにしている人、サークルの参加状況、さらに経済状況や職業歴などを聞いて「SVS聞き取りシート」に書き込み、電子カルテに入力しています。
 聞き取った患者さんの診察券に「この方の連絡先が必要な場合は当院へご連絡ください」と記された「連絡先シール」を貼っています。患者さんが倒れて他の病院に緊急搬送されたとき、このシールを見つけると苫小牧病院が仲介してご家族や友人に連絡できます。
 外来に「連絡先調査」への協力を呼びかけるポスターを貼っています。これを見て「私も緊急連絡先を伝えておきたい」と自ら申し出る患者さんもいます。


「地域担当看護師」
 外来で聞き取るだけでなく、業務の合間に患者さんの自宅を訪問しています。
 2017年9月から地域担当看護師」を配置。地域ごとに担当の看護師を決めて訪問することで相談を受けやすくなり、信頼関係を築きたいと考えています。待合室にポスターを掲示して、患者さんに担当者の顔と名前を知らせています。


SVSってすごい!
 SVS聞き取りをはじめてから、認知症と思われる高齢者が整形外来を訪れました。コミュニケーションをとることが難しく、以前ならば医療福祉課も対応にあたって大変な苦労をするところでしたが、SVSの情報によってご家族に連絡することができました。職員からは「SVSってすごい!やってて良かった」という声があがっています。
 看護師の対応にも変化があらわれています。外来看護師長の幌沙小里さんは、「これまでは目の前の事例を私たちの経験にもとづいて早く解決しようとしていました。そうではなく、いったん患者さんの過去にさかのぼって家族や幼少期の事情などを知り、問題の根本が分かったうえで対応することが大切です。患者さんの背景に踏み込むことの必要性にあらためて気づきました」と話します。




時間をかけて信頼築く

伏古10条クリニック
 勤医協伏古10条クリニックの職員は「健康の社会的決定要因」「健康権」などの学習を重ね、患者さんの背景を知る必要性を感じていました。そこで苫小牧病院のとりくみを学び、2017年から取り入れました。


診療所に合わせてカスタマイズ
 苫小牧病院のSVS調査をそのまま取り入れても、院所の規模や業務体制が違うためうまくいきません。そこで、苫小牧病院を参考にSVSシートを作り直し、シートをスキャンして電子カルテに記録を残すなどの工夫をしました。
 SVSシートには、ケアマネジャーの情報や、患者さんが意思表示ができなくなったときの医療と介護のあり方、最期をどのように迎えたいかといった意思(アドバンス・ケア・プランニング)を書き込む項目を加えました。


自主的に訪問へ
 検査数値が改善しない、検査のキャンセルが続く、最近服装が乱れているなどの異変に気づいたときは、積極的に患者さんやご家族からSVSを聞くことにしています。また、必要に応じて看護師が自主的に患者さんの家を訪問して聞き取りをおこなっています。看護師の高柳芳美さんは、「毎日忙しい中でも訪問にいけるよう体制を保障してくれます」といいます。
 プライベートに踏み込む質問に答えたがらない人もいます。そのときは無理せず、信頼関係を築くまで待つことにしています。
 「受診に来ることが社会との唯一の接点という方もいるので、定期受診だけは中断させないように気をつけています」と看護師長の黒澤理穂さん。患者さんと家族が抱えている問題を解決するまでに2年を費やしたケースもあります。
 「SVSを聞き取ることによって、患者さんは自分が置かれている状況をいったん立ち止まって考えることができます。私たちも事例の見方が変わるのでとても良いとりくみだと実感しています」と高柳さんは話します。



物忘れ外来で活用

道北勤医協一条通病院
 道北勤医協一条通病院は2015年10月に物忘れ外来を開設し、そこでSVS聞き取りをはじめました。患者さんや家族から介護保険サービスの利用状況などを聞き、電子カルテに直接入力しています。


安心つながり手帳
 旭川市は地域の医療・介護関係者の情報共有を目的に、「あさひかわ安心つながり手帳」を介護保険サービスを利用している在宅の高齢者に渡しています。この手帳を持っている患者さんの承諾を得て、かかりつけ医などを記載しています。
 坂本亜由美師長は、「SVSは民医連らしい、すばらしいとりくみだと思います。法人全体に共有していきたい」と話します。



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