現場から

久しぶりにお風呂へ 入浴拒否の入居者 時間をかけて心をひらく

2020年1月1日

勤医協福社会 月寒在宅総合センター
看護小規模多機能 りんごの里

勤医協福社会 月寒在宅総合センター
看護小規模多機能 りんごの里

 病気や認知症があっても在宅で生活できるように支援をしている月寒在宅総合センターの看護小規模多機能型居宅介護(看多機)「りんごの里」に、少なくても1年以上入浴を拒否している加藤隆さん(80代・仮名)が入居しました。看多機の職員たちは積極的に関わりをもち、入浴してもらうことができました。(木幡秀男・県連事務局)


 加藤さんは、数年前に妻を亡くしてからは周囲の人とあまり関わらなくなり、子どもたちもどう接してよいのかわからないというほどコミュニケーションをとることが困難でした。以前に入っていた施設では入浴を拒否し、1年は入浴していません。入居にあたって管理者の松本光司さんは、「どうすれば心を開いてくれるのか」と悩みました。入居の前日にAさんは自室で転倒し、車イスでの入居になりました。
 看多機は月ごとの定額制のサービスで、在宅と施設で必要に応じて看護師や介護士が介助に入ることができます。松本さんはスタッフと話しあい、加藤さんの部屋をなるべく訪ねてスタッフの顔を覚えてもらい、住宅の雰囲気に慣れてもらおうと意思統一しました。
 毎朝の声かけに始まり、食事への促し、服薬など、ことあるごとに加藤さんに声をかけました。痛みであまり体を動かせないこともあり、清拭や着替え、トイレの促しなど、スタッフの訪室は1日5~6回にもなりました。
 こうしたとりくみによって、最初は「面倒だ!」「腰が痛い!」とだけ言っていましたが、会話をするようになりました。看護師の葛西陽子さんは、「炭鉱で働いていた加藤さんは、閉山になって各地の炭鉱を渡り歩いていたことや、当時の生活ぶりを話してくれるようになりました。今まで硬かった表情が緩み、私たちの訪室を拒むことがなくなりました」と話します。
 職員たちはその機会を逃さず、「お風呂に行きましょう、気持ちいいですよ」と誘うと、久しぶりに入浴にこぎつけることができました。入居から1ヵ月が経っていました。
 「伸び放題だった髭を剃り、さっぱりした様子でした」と葛西さん。「看護師は私を含めて2人だけなので、介護職の関わりが大きかったと思います。どんなときも、『しっかり受け入れます』という包容感、安心感がスタッフにあります」。
 その後は入浴を拒否することはなくなりました。今では職員に『あんたたちが来たら断るわけにいかないしなぁ』と笑って応じてくれるようになりました。
 松本さんは「看多機では通所も訪問も同じスタッフが担当しています。認知症の方にとっては『馴染み』の顔がそこにあることで安心感につながります。看多機だったから加藤さんとのコミュニケーションができたのだと思います。これからも利用者さん一人ひとりと向き合っていきたい」と話しました。

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