現場から

地域の人たちと いのちを見守る

2020年1月23日

勤医協小樽診療所
全職員でSDHを学び「気になる患者訪問」

勤医協小樽診療所
全職員でSDHを学び「気になる患者訪問」

勤医協小樽診療所では全職員で「健康の社会的決定要因(SDH)」などの学びをもとに、「気になる患者訪問」をおこなっています。患者さん一人ひとりの生活背景を見聞きしながら暮らしを見守り、地域の人々とともに「孤立死」「手遅れ死」をなくそうとしています。(渋谷真樹・県連事務局)

 

外来で気になるけど


 「患者さんの身なりが汚れてきた」「電話しないと受診に来ないことが多くなった」「薬が余っている。飲み忘れることが多いようだ」。
 来院する患者さんの変化に気づいても、外来の問診で詳しく聞くことは難しく、聞いたとしても「今までと変わりない」と多くの方が答えます。多職種カンファレンスでは、「生活の様子が気になる患者さんがいる」「治療に専念できない理由を知りたい」という声があがるなど、職員たちは心配していました。今までにも患者訪問をすることはありましたが、継続的な行動には結びついていませんでした。


学習から訪問へ


 全職員会議で年2回、「健康の社会的決定要因(SDH)」などを学習し、実際の事例をもとに患者さんの生活背景を考えました。2年目事務員の千葉一輝さんは、「職種によって視点が違い、学びになりました。教育や労働環境などが健康に大きく影響することや、病気があっても治療に結びつかない人がいることを知りました」と話します。
 学習を繰り返すことで「気になる患者訪問」の必要性に気付き、2018年から積極的に始めました。
 さらに、苫小牧病院や伏古10条クリニックでおこなっている「SVSシート(患者さんの生活背景を把握するとりくみ)」を取り入れ、訪問と外来で活用しています。看護師長の信田千恵さんは、「設問が多く一回の外来では聞けないので、来院のたびに少しづつ聞いています。とくに生活の様子が気になるときは訪問します。自宅では患者さんの緊張がほぐれ、外来では言えないようなことを話してくれます」といいます。
 工夫したのは「困窮チェック」です。「いきなり『お金に困っていますか?』と聞くのではなく、日本HPHネットワークが作成した経済的支援ツールを参考に、『月末に支払いが苦しくなることがありますか?』『自分の楽しみのために使えるお金はありまか?』など、できるだけ答えやすそうな5項目を設問に加えました」。


地域で協力しあって


 小樽診療所は2013年に2人の「手遅れ死亡事例」を経験しています。地域で孤立していた人をみつけて受診につなげてくれたのは地域の人々でした。
 経担会議で全日本民医連の「第6回診療所交流集会の問題提起」を読み合わせ、困難を抱える人をキャッチして問題解決するためには、地域の医療・介護事業所や行政、友の会と連携し、地域に足を運んで生活実態を知る必要があると確認しました。信田さんは、「診療所だけでは地域を把握できません。さまざまな事業所・施設、生健会などの団体を訪問して連携を強めています。診療所だけでなく、地域のケアマネジャーや友の会員といっしょに患者訪問することもあります。患者さんをよく知っている方に協力してもらうことでスムーズにすすみます」といいます。

訪問で受診につなげ
 昨年4月、地元の市議会議員から「最近、物忘れが多く心配な人がいる。様子をみてほしい」と連絡があり、看護師と事務員が訪ねました。室内にゴミが散乱し、ストーブの火が燃え移る危険がある状態でした。70代男性は、年金月7万円から家賃3万円を払い、衣服も汚れが目立つなど余裕のない生活をしていることがうかがえます。市議は生活保護の利用を勧めていましたが、「兄弟に知られたくない」と拒否します。
 無低で受診し、検査すると認知症と診断され、介護申請で要支援2になりました。現在はある程度片付けられた部屋で生活を続け、毎月開催されている「ぽぽろ食堂」に参加するなど、地域に見守られています。


生活そのものを理解


 「気になる患者訪問」は昨年までに32件になりました。信田さんは、「多くの方は物忘れがありながらも、日常生活ができるように工夫していることがわかりました。趣味を持っていたり友人がいるなど、安心することが多いです。地域に足を運んで生活背景を知り、見守ることで、その患者さんが変化したときも気づきやすくなると思います。地域の人の生活そのものを理解するのが診療所の役割のひとつだと思います。外来で患者さんを待つのではなく、地域の人たちといっしょになって地域に入るとりくみをつづけていきたい」と話します。

現場医療地域・友の会