現場から
日本一健康なまちへ
町の指定管理者として開院から10年
くろまつないブナの森診療所
町の指定管理者として開院から10年
くろまつないブナの森診療所
春の陽光が降り注ぐ黒松内町。人口2,316人、「ブナ北限の里」として知られるこの町が挑戦しているのは、「日本一健康なまち」。その中核を担うのが、町立病院と勤医協の診療所が統合して誕生した「くろまつないブナの森診療所」です。開院から10年、医療の枠を超えた「まちづくり」が行われています。(県連事務局・佐藤秀明)
医師確保の困難から病院維持が危ぶまれていた黒松内町は、北海道勤医協に運営を要請しました。「何でも相談にのれる総合的な医療の環境としくみを整えたい」――その願いを受け、北海道勤医協が指定管理者として運営を引き受け、2016年4月に新体制がスタートしました。そして10年間の期限を迎えた今年3月18日、さらに5年間継続する協定を結びました。
「この10年で最も大きかったのは新型コロナへの対応です。複数回にわたるワクチン接種体制を地域全体で成功させたのは、診療所の存在が大きい。感染対策から重症化予防まで、地域に密着した医療が町を守ってくれました」と、鎌田満町長は振り返ります。
かつては専門医療を受けるために札幌まで通う負担がありましたが、中央病院からリウマチや循環器などの専門医が定期的に来診し、町民の安心感を支えてきました。
以前、国保病院の事務長を務めた新川雅幸副町長は、「医療、介護、福祉の各事業所がテリトリーに縛られず、住民にとって最適な方法を実践している」と、「生活を中心においた連携」の深化を強調します。
黒松内町でも人口減少、高齢化の波は避けられません。高齢化率は4割を超え、人口は1955年のピーク時の3分の1になりました。しかし、ここでは「孤立」を防ぐネットワークが機能しています。
「〇〇さんが道路の真ん中を歩いていた」といった住民からの情報は、すぐに診療所、保健師、ケアマネジャーに伝えられ、共有されます。認知症があっても地域で見守り、支え合いながら暮らせる土壌が育まれています。
町内の介護・福祉施設「つくし園」との協力体制も強固です。昨年からは週一度、リハビリ技士が診療所に派遣されるようになりました。作業療法士が作成したメニューを看護師が日常のケアに取り入れたり、退院前患者の自宅訪問に同行してアドバイスをもらっています。
着任6年目の富樫真紀看護師長は、「雪の多いこの町では、雪かきは生活そのものです。病棟で技師がスコップを持って、腰を痛めない動作を教えているんですよ」と話します。リハビリ体制の充実は、入院患者さんの早期退院支援と医療の質向上に大きく寄与しています。
卒後6年目に着任した高橋琴絵医師は、開院当初を振り返ります。「断らず全て診ようと、24時間の救急に必死に応えていました。絆創膏一枚貼るだけで安心した顔をして帰っていく患者さんを見て、不安に寄り添うことが地域医療の役割だと感じました」。
2人の子育てをしながら働き、自らの育休経験を通じて地域との距離を縮めてきました。「健康でありたいとみんなが願い、努力し助けあって生活している。困った時に相談されることもあります。住民の思いをつなぐ『相談相手』になることも、診療所の役割だと思います」。
自然をいかした森林療法による健康増進・認知症予防にも着目しており、学会発表の準備を進めています。
町との新たな協定には、尾形和泰所長の提案で「健康増進活動」の項目が加わりました。診療所はHPH(健康増進活動拠点病院)への参加を決め、学習と実践にとりくんでいます。職場では、美花・運動・文化をテーマにした部活動が盛んです。畑で野菜を育て、地域の人から漬物作りを教わり、山登りやスポーツを楽しむ。住民との日常的な交流が、職員の働きやすさにもつながっています。
齋藤久美子事務長は、「将来の地域医療の担い手を育てる役割を、これからも果たしていきたい」と話します。住民・医療者・行政が紡いできた信頼を土台に、診療所は11年目の歩みを踏み出します。