現場から
医師の原点ここにあり
30年ぶりに臨床へ復帰した鈴木院長の驚き
30年ぶりに臨床へ復帰した鈴木院長の驚き
勤医協中央病院で長く院長を担ってきた鈴木隆司医師が今年4月、「勤医協札幌北区ぽぷらクリニック」の院長に赴任しました。管理業務から離れ、30年ぶりに一般内科の臨床現場に復帰した鈴木院長を待っていたのは、大病院からは見えづらかった地域の「困難事例」との遭遇でした。(渋谷真樹・県連事務局)
地域に根ざした「頼れる診療所」
札幌市北区のぽぷらクリニックは、1982年開設の「新琴似診療所」、84年の「勤医協札幌北区病院」をルーツに持ちます。長い間、「何かあったら勤医協へ」と地域住民に親しまれてきました。1日平均患者数は96人、その半数以上(55.3%)を70歳以上の高齢者が占めています。
制度の谷間で立ちすくむ人々
鈴木院長は1989年、北海道勤医協に入職後、中央病院の循環器専門医として心臓カテーテル治療に力を注ぎ、その後は管理職・院長として8年間、臨床現場から離れていました。30年ぶりに一般内科へ復帰した鈴木院長は、赴任直後から救急搬送一歩手前の困難事例に次々と直面し、その現実に衝撃を受けました。
住まいを失い、ホームレス状態だったAさん(60代男性)は、「歩けなくなった」と区役所に相談。支援団体「みんなの広場」のシェルターを紹介され、そこから「ぽぷら」につながり受診。アルコール障害の影響はありましたが、検査では特定の疾患が見つからず、シェルターで規則正しい食事をとってもらいました。すると体調がみるみる改善し、1ヵ月で歩けるまでに回復。行政、民間団体、医療機関が連携して支援できた事例です。Aさんは札幌を離れ、新たな生活を始めています。
また、就労自立にともない生活が困窮し、高額なリウマチ治療を中断せざるを得なくなった方や、治療費の捻出困難で甲状腺疾患の治療を中断していた女性もクリニックを受診。いずれも、無料低額診療を活用して治療を再開できました。
クリニックの役割 現場で強く実感
鈴木院長は思わず職員に「大変な事例ばかりですね」と漏らすと、「これが私たちの当たり前ですよ」と言葉が返ってきました。医療の介入が遅れれば重篤化して救急搬送されていた事例を、水際で防ぐクリニックの役割を強く実感したといいます。
「生活困窮により医療が遠い存在になっている人は確かに存在します。学術集会などで報告を聞くのと、自分で直接診察するのとではインパクトが全く違いますね」と鈴木院長。「この30年で医学は進歩しましたが、『病気の本質』は変わりません。研修医時代に叩き込まれた感覚が不思議と蘇っています。いま、ようやく『医師の原点』に戻れたように感じています」と目を細めます。
連携と経営改善・患者の掘り起こし
鈴木院長はこうした気づきから、患者の社会的背景を把握するため、看護外来や相談部門、MSWとの連携強化に乗り出しています。さらに、管理職の経験を活かして経営改善にも着手。電子カルテ化によって見落とされがちになっていた定期検査のオーダーを管理できるようにしました。
また、自身の専門性を活かし、「心臓病に強いクリニック」を新たな柱として打ち立て、隠れた心疾患を数多く掘り起こしています。
北区は医療機関が全国平均より少なく、今後はさらに医療・介護需要の増加が見込まれる地域です。多職種によるチーム医療の深化や、自ら地域へ飛び込んでニーズをつかみ、行政などとの連携をさらに強化していこうと目標をあらたにしています。