現場から

拘束「ゼロ」への挑戦

2026年8月28日

多職種で実現「尊厳を守るケア」
勤医協札幌西区病院

多職種で実現「尊厳を守るケア」
勤医協札幌西区病院

全国の医療機関や介護施設で「身体拘束の最小化」は重要な課題です。勤医協札幌西区病院の入院病棟でも、かつては「患者さんの安全を守るため」とミトンなどを使用していました。しかし、多職種連携と現場の意識改革により「患者さんの思いに寄り添うこと」へ立ち返り、身体拘束実施ゼロ日を達成。経営面でも成果につながっています。(渋谷真樹・県連事務局)


これまで入院患者の点滴・チューブ抜去や、おむつ外しによる汚染を防ぐため、身体拘束の三要件(切迫性・非代替性・一時性)に基づき、ミトンや自分で脱衣できない抑制着(つなぎ)を使用することがありました。夜間対応を含め、安全確保や衛生管理のために「やむを得ない措置」と考えていたためです


診療報酬改定を機に実態把握と見直しへ

しかし、2024年度の診療報酬改定で「身体的拘束最小化」が義務化されたことを機に「身体的拘束最小化委員会」を設置。実態調査を行うと、3病棟(地域包括ケア病棟)の月平均実施日数2・2日に対し、2病棟(当時の障害者施設等一般病棟)が51・2日と大きな差があることが判明しました。 長期入院が多くチューブ類を必要とする患者が多い2病棟では、安全面から抑制率が高くなる傾向がありました。その後、2病棟が地域包括ケア病棟へ転換してからは、拘束の適応や代替手段を検討するカンファレンスを週1回実施。「本当に必要か」「本人の意向はどうか」を全スタッフで徹底的に考えました


意識を変えた「意思決定支援(私のきぼう)」

カンファレンスを通じて立ち返ったのは「意思決定支援」の重要性です。認知症やせん妄状態の患者は「嫌だ」と言葉にできず、チューブを抜くなどの行動で示します。そこで、意識が鮮明な入院初期にパンフレット「私のきぼう」を活用し、「どのような最期を迎え、何を望むか」を対話することに努めました。 看護師が患者の代弁者としてこの情報を多職種で共有することで、「医療介入をしない」という選択肢も話し合えるようになりました。管が入っていなければ自己抜去を防ぐ拘束も不要になります。「拘束を外す」のではなく、「患者の望まない医療を回避する」ことこそが「拘束ゼロ」への近道となりました。 2病棟の今村友香看護師長は、「身体的拘束の実態が可視化され、師長として風土を変える覚悟を決めなければと思いました。24時間ケアにあたるスタッフの大変さに心を寄せながら、三要件に立ち返り適応を見直すことは容易ではありませんでした」と振り返ります


成功体験を重ねてスタッフの心が変化

当初は「汚染や事故への対応が困難」との懸念もありましたが、対話を重ねる中で「患者の嫌がることはしたくない」というスタッフの本音が見えてきました。点滴の自己抜去を繰り返すAさんのミトンを外した際、実際に抜去が発生しました。しかしチームは誰も責めず「嫌なんだから仕方ない」と受け止め、主治医と連携して経口摂取への転換を模索。さらに精神科との連携による服薬調整やリハビリ職による離床支援を行った結果、寝たきりだったAさんは麻雀を楽しめるまでに回復しました。こうした成功体験の積み重ねが、スタッフの意識を大きく変える力となりました


「実施ゼロ」達成で経営にも貢献

地道な取り組みの結果、拘束の実施日数は半減し、今年5月には「実施ゼロ日」を達成。今年の報酬改定で新設された地域包括ケア病棟での「身体的拘束最小化推進体制加算」の要件も満たし、年間約1300万円の増収が見込まれています。 拘束の検証を通じてカンファレンスが活性化し、スタッフからの自発的な提案も増えました。小澄悦子看護部長は、「安全と尊厳のジレンマの中で職員は苦悩してきましたが、患者の尊厳を守るケアが結果として職員の安心にもつながることを実感できた取り組みとなりました」と話します

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