現場から

コロナ禍の影響で生活困窮

2020年7月23日

患者に寄り添う活動

患者に寄り添う活動

 貧困と格差の問題は新型コロナウイルス感染によって一気に顕在化・深刻化しています。医療現場で何が起きているのか、帯広病院と札幌病院の事例から考えます。受療権を守ろうと奮闘する職員、友の会員を取材しました。(大須賀峰敏・県連事務局)




友の会員訪問から生活保護利用へ(十勝・帯広病院の事例から)


 帯広市内に住む鈴木次郎さん(70代・仮名)は土木関係の仕事をしていましたが、コロナの影響で会社から雇止めをうけました。同時期に体調が悪化しましたが、お金がないため病院に行けず、アパートの家賃も払えなくなりました。
 ちょうどそのころ、友の会員訪問のとりくみをしていた鉄南友の会の牧野美智子さんが、鈴木さんが住むアパートの大家さん(友の会員)を訪ねました。大家さんは具合の悪そうな鈴木さんを紹介しました。
 牧野さんは鈴木さんを連れて生活保護申請窓口に行き、保護が利用できるようになりました。鈴木さんの所持金は千円足らずでした。
 友の会員の地道な訪問活動が鈴木さんのいのちを救いました。牧野さんに付き添われて帯広病院を受診した鈴木さんは、「本当に助かった。出会えてよかった」と感謝しました。

ハガキと電話がけで困難をキャッチ

 村上幸子さん(80代・仮名)は、要介護4。65歳の娘さんと2人で暮らしています。収入は2人の年金と、娘さんの清掃のパート収入です。しかし、コロナ禍によって清掃に入っていた温泉ホテルが軒並み休業になり、収入が著しく減少しました。娘さんは「ひとり娘だし、私がやりくりしてしっかりやらないと」と、村上さんの生活を支えてきましたが、経済的、身体的に辛く、出口の見えない日々を送っていました。
 そんなとき、幸子さんが入院していた帯広病院で担当していた理学療法士の滝沢隆太さんから、直筆のハガキが届きました(写真)。娘さんは、「直筆のあたたかい言葉に感激して、母も涙ぐみました。ハガキが届いてからすぐに師長さんから電話がきて、リハビリ入院をすすめてくれました。7月に入院予約します」と話します。医療費については、無料低額診療の手続きから対応をすすめています。
 患者減への対策としてとりくんだ直筆ハガキと電話がけによって、患者さんとご家族の困難をキャッチすることができました。

 


 

無保険患者を生活保護に(勤医協札幌病院の事例から)


 札幌市の田中浩子さん(50代・仮名)は夜の仕事をしていましたが、コロナの影響で仕事がなくなり、昼の仕事を探そうとした矢先、我慢できない腹痛に襲われました。10年前まで勤めていた会社を退職したときから健康保険には入っていません。10万円ほどあった預金を治療費として準備し、友人に連れられて6月に札幌病院を受診。検査の結果、治療が必要と診断されましたが、会計窓口での支払いは、手持ちのお金では足りませんでした。
 窓口の職員は医療福祉課を案内し、ソーシャルワーカーの戸倉朋子さんが対応しました。「実家から月3万円の援助を使って今をのりきろう」と考えていた田中さんに、戸倉さんは「健康保険に加入していなくて収入もないならば、生活を再スタートさせるために生活保護を受けてはどうか」と提案しました。
 田中さんは保護を申請して決定したことで、受診することができました。戸倉さんは、「相談を受けたときには、もう生活保護を使うしかないという人が増えています」と話します。


無低利用者も増えた


 札幌病院の医療福祉課の藤田幸司さんは、強い危機感を持っています。「新型コロナ感染が拡大したとき、外来患者数が約3割も減りました。しかし、無料低額診療の新規利用件数は減っていません。相対的に無低を利用する患者さんが大幅に増えているということです」と指摘します。
 「パートを解雇された」「派遣の仕事がなくなった」という人は今までもいましたが、次の仕事がない人が増えているといいます。
 「収入が見通せない中で、国保に入れない方も増えています。保険料を遡って払わないと加入できないと思っている人も多い。新型コロナの特例で、収入が著しく減った場合は保険料が大幅に軽減されることや、一部負担金の減免があることが知られていないようです」と藤田課長。役所の窓口担当者がこうした制度を知らないこともあったといいます。
 「国や自治体は、責任をもって緊急事態に対応した国保の減免制度などを周知するべきです。無保険になったり、収入が減って受診を我慢している人が増えていると思います。そのような患者さんたちを想像すると心配でたまりません」と話します。
 札幌病院では、「もっと無料低額診療を多くの人々に知ってほしい」と、新しいチラシを作成。近隣の小中学校をまわって就学援助世帯を対象にチラシ配布をお願いしています。また、ハローワークにも置いてもらえるよう、申し入れることにしています。

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