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受診抑制で奪われる命 道民医連が記者会見

2017年4月27日

手遅れ死亡事例を発表

手遅れ死亡事例を発表

手遅れ死亡事例を発表
 北海道民医連は26日に道庁記者クラブで記者会見をひらき、2016年の「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」の結果を発表しました。58人にのぼった全日本民医連の調査結果とともに北海道の2事例を報告。深刻な実態を浮き彫りにして社会保障制度の改善に向け、一石を投じました。


 主要紙、テレビ局など10人の記者が参加した記者会見では、道民医連の堺慎会長と太田美季事務局長、勤医協中央病院の古田陽介医療福祉課課長が調査結果を報告しました。
 はじめに太田事務局長は、全日本民医連の調査結果の概要を次のように説明しました。


■ 結果 ■
 民医連事業所での2016年の「手遅れ死亡」事例は全国で58人。すべての医療機関で考えれば氷山のほんの一角にすぎない。全国で発生している孤独死、孤立死の中には、同じように経済的な事由で医療機関にたどりつけずに命を落としたケースも多数含まれているものと考えられる。


■ 概要 ■
 無保険や資格証になった34例のうち、保険料が払えなかったなど経済的な理由によるものが20例と6割近い。その背景には高い保険料の問題や年金支給額の低さ、非正規雇用など雇用の問題がある。さらに、保険料を払い、正規の保険証を所持しているにもかかわらず命を落としている事例が少なくない。その理由の多くは、医療費が払えず治療を中断、または受診できずに病状が悪化したため。

 太田事務局長は、「これでは健康保険がその意味をなしていない」として窓口負担の軽減などを訴えました。



2つの事例を告発
 続いて古田課長が北海道の2事例を説明しました。


入院の20日後に死亡
60代・男性
 独居のAさんは63歳まで自営業をしていたが、働けなくなり生活保護を利用した。年金支給が開始され保護廃止となり無保険に。体が動かせなくなって3ヵ月、訪ねてきた身寄りによってひん死の状態で発見された。勤医協の病院に救急搬送されたが、原発不明のがんで末期状態。入院から20日後に亡くなった。
 Aさんの年金は月8万円程度しかなく、保険料が払えないため国保に加入できなかったと思われる。明らかに生活保護基準以下なので、その後の対応や、独居高齢者に対する支援活動も必要だったのではないか。


月収10万 国保料払えず
50代・男性
 独居で日雇いの仕事をしていた50代男性。国保には加入していなかった。両下肢の浮腫と痛みがあり、3週間ほど我慢してから勤医協の病院に受診。収入が少ないため生活保護の申請を検討したが、仕事を続けたいと国保に加入し無料低額診療制度での治療を希望。壊死筋膜炎から敗血性ショックになり、無低制度がない病院へ転院。生活保護を申請したが転院の翌日に亡くなった。
 月収10万円だったため国保に加入できず、医療費を心配して受診を我慢していた。無低制度を知っていれば受診できたかもしれない。


 古田課長は、「生活保護基準以下の収入でありながら保護申請をためらう方は多数います。手遅れ死亡事例を繰り返さないよう、各種制度や対応の改善が必要。無保険や窓口負担が困難な低所得者の方に無料低額診療制度を活用してほしい」と訴えました。
 堺会長は医師の立場から、「こうした事例を報告しなければならないこと自体に憤りを感じます。深刻な症状があっても受診することができないなど、制度の谷間に落ちる人を生みだしている『国民皆保険制度』の実態や、社会保障解体政策に問題点があります」と述べ、総合的な相談窓口の必要性などを訴えました。
 記者からは、手遅れ死亡事例の毎年の動態や事例の詳細、無低制度の適用基準などについて質問が寄せられました。

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