ムーヴメント
「訪問しなければ見えなかった」生活困窮の実態に怒り
北海道保健企画
全職員で事例報告会
北海道保健企画
全職員で事例報告会
北海道保健企画は20日に全職員集会を開催し、71人が参加。各薬局から「友の会拡大・強化月間」でとりくんだ無料低額診療制度を利用している患者訪問の経験と患者さんの生活実態が報告され、今後の運動について話し合いました。(大須賀峰敏・県連事務局)
集会では、勤医協札幌西区病院・医療福祉課の土屋早苗課長が、「無料低額診療制度を通してみえてくるもの」と題して学習講演をおこないました。
北海道保健企画は今年の「月間」中に46人の職員が参加して25軒を訪問し、29人から話を聞きました。集会では各薬局から5つの事例が報告されました。
40分も歩いて節約
菊水ひまわり薬局は、1年目事務職員の石井碧さんが、年金と子どもからの仕送りで生活している夫婦(夫60代・妻50代)の事例を報告しました。収入が少ないなか、各種の支払い滞納や借金が増え続け、持ち家の住宅ローンの負担も重くのしかかります。「夫は足が悪いので通院にタクシーを利用しているが、薬局に行くだけのときは私が40分かけて歩いて節約している。もう、切り詰められないほど切り詰めている」と妻は話します。訪問した石井さんは、「無低制度が本当に患者さんの健康を支えている大切な制度であると実感した。しかし、薬局に適用されないのは本当におかしい」と語りました。
ガス止めて寒さ我慢
北区ひまわり薬局・薬剤師の工藤祐子さんは、ひとり暮らしをしているAさん(70代・男性)の事例を報告しました。Aさんは急性心筋梗塞で中央病院に救急搬送されたとき、ソーシャルワーカーに相談して無低制度を申請しました。退院後の現在も無低制度を利用してぽぷらクリニックに通院しています。Aさんは10万円に満たない年金収入で貯蓄もありませんでした。暖房費を節約するため、業者に頼んでガスを止めてもらったといいます。「心配なことだらけ」と漏らすAさんの言葉に、「病院や薬局が最後のよりどころの役割を果たしていきたい」と工藤さんは思いを強くしました。
手元に残るのは千円
新道ひまわり薬局・薬局長の佐藤栄吉さんは、札幌市内に暮らすBさん(70代・女性)の事例を報告。糖尿病、冠動脈硬化症、白内障、腰部椎間板ヘルニアなど複数の病気を抱えるBさんは、薬代だけでも月3~4千円かかります。弱い視力や腰痛のため、家事もできず、食事は朝夕の宅配弁当(1食400円)を利用。デイの利用料などを支払うと手元に残るのは千円程度といいます。佐藤さんは、「糖尿病治療で2種類のインスリンを使っているので、視力が弱くて間違えないか心配です。訪問しなければわかりませんでした」と語りました。
必要な注射薬も節約
西区ひまわり薬局・事務長の坂本洋さんは、無低制度を利用して西区病院やひだまりクリニックに通院している70代のCさん夫婦の事例を報告。運送業を営んでいましたが経営状態が悪くなり、数年前に廃業。年金は2人あわせて16万円です。糖尿病の夫は、「ビクトーザ皮下注」という注射薬を毎日自分で注射しています。薬代だけで月1万円以上の自己負担になりました。
注射薬は月に3本必要ですが、薬代を抑えるために2本しかもらわないようにしていたといいます。正確な薬液量を注射するために必要な2度の空打ちを1度に減らして薬液を節約していました。それでも足りなくなると注射を中断していたといいます。「いっそのこと治療を止めてしまおうか」と悩んでいたとき、道央健康友の会の「友の会新聞」で無低制度の紹介記事を妻がみつけました。すぐに西区病院に相談し、利用することができました。坂本さんが訪問したとき、Cさん夫婦から「薬局でも病院と同じように無料になると助かります。どうか北海道や札幌市に働きかけてほしい」とお願いされました。「あらためて訪問の大切さに気づきました」と坂本さん。訪問後に薬局に来たCさんは、注射薬を3本受け取って帰ったといいます。
「死んで楽になりたい」
勤医協中央病院薬剤部の新入薬剤師・岩崎知明さんは、東区ひまわり薬局の事務課長といっしょに初めて訪問に参加し、90代のDさんからお話を聞きました。Dさんは2年前に誤嚥性肺炎で中央病院に緊急搬送され、そのときに無低制度を利用しました。70代の妻は、無低制度のない脳外科にかかっていますが「診察代を滞納しているので受診をためらう」と話し、岩崎さんに「月収13万円でお金がない。死んで楽になりたい。お父さんが死んだら私も死ぬ」と訴えました。岩崎さんは「初めての訪問だったので、様子を見ていればいいのかなと思っていたけれど、Dさんの真剣な思いを聞いて、薬剤師として責任をもって向き合わなければならないと考えを改めました」と率直に語りました。
制度全体を変えよう
事例報告を受けて参加者でディスカッションすると、「忙しい中で訪問するのは大変。でも、今の制度でこんなに苦しんでいる患者さんがいることを知り、訪問の大切さを改めて感じた」「根本的に解決するためには無低制度の拡充だけでなく、医療保険制度全体の改善が必要で、そのために私たちも努力したい」などの感想や決意が次々に語られました。