ムーヴメント

「口から見える貧困」 保険で良い歯科医療を

2019年1月24日

医療と介護の問題を考える公開学習会

医療と介護の問題を考える公開学習会

講演する荻原歯科医師

 昨年1226日、「医療と介護の問題を考える公開学習会」がおこなわれ、勤医協札幌歯科診療所の荻原真理子歯科医師が、歯科酷書や自身が担当した事例を交え「貧困と『口腔崩壊』」について講演しました。その一部を紹介します。

 

歯科酷書の事例から

 民医連歯科は「歯科酷書」を発行し、診療現場で目にする口の中の異常事態を紹介しました。2009年に第一弾、2012年に第二弾を発行し、2018年に発行した第三弾はSDH(健康の社会的決定要因)の視点から問題をとりあげています。歯科酷書は全日本民医連歯科部のホームページでも見ることができます。

 歯科酷書から2つの事例を紹介します。

 建築の仕事中、背骨にヒビが入るけがで仕事を辞めた20代の男性は、長時間立っていると腰が痛くなるため日雇いの仕事がなくなり、路上生活をしていました。その後、自立支援センターの寮に入り、そこから歯科に紹介されました。ほぼ全ての歯が虫歯で、面接のときに見た目が悪いと採用されないということで歯科治療を希望されました。

 友人宅に間借りして生活していた40代無職の男性は、下あごにできたこぶし大の大きな腫れのために仕事ができなくなり、お金がなく受診もできず3~4年も放置していました。エナメル上皮腫という腫瘍で重度の虫歯も多数あり7、8本の歯を抜かなければならない状態でした。初診時は手持ちの現金が2000円ほどしかなく、生活保護を利用して治療しました。


貧困と歯の喪失

 貧困と口腔崩壊の関連を裏付けるデータがあります。歯の数は加齢とともに減っていきますが、同年代で比べると、収入が多いほど残っている歯の本数が多い傾向にあります。

 歯の二大疾患、虫歯と歯周病は生活習慣が大きく関係し、正しい知識と習慣があれば予防しやすい分野です。その反面、予防の知識が不足していたり、歯科に通う時間やお金がないと重症化しやすくなります。定期検診やケア、早期治療を受けていると重症化しません。早めに虫歯をみつければ早く治療が終わります。


虫歯と歯周病

 糖分が長時間口の中にあると、歯は虫歯菌によって溶かされます。しっかり時間をかけて歯みがきをせず、飴や砂糖が入った飲み物を頻繁に口にしている人は要注意です。

 歯周病は歯ぐきが腫れて歯がグラつき、最後には抜けてしまう病気です。歯周病菌によって歯ぐきやその周りの骨に炎症がおこります。歯磨き不足に、タバコやストレスなどの因子が加わると進行が早まります。厚労省の調査では、収入の低い人の方が喫煙率が高いことがわかっています。虫歯も歯周病も、一番効果的な予防法は歯みがきです。


歯科治療と医療費

 虫歯や事故などで前歯が折れてしまったとします。根元から折れて根の治療が必要な場合は、状態にもよりますが、通院回数は最低でも5~6回、費用は3割負担で約1万1000円です。上下の総入れ歯を作る場合は1割負担で約8000円、在宅訪問歯科診療の場合は約1万4000円になります。

 ちなみに小中学生の虫歯は就学援助の学校病に指定されており、一定以下の収入の家庭には医療券が発行され窓口負担額が無料になります。乳幼児も初診の510円以外は無料です。

 自分での歯みがきが不自由になった方には、歯科衛生士がケアと指導を行う「訪問衛生指導」があります。週一回、一割負担で月に約2000円です。口腔ケアには肺炎予防の効果もあります。

 香川県の調査では、「定期的に歯科検診を受けている人の方が医療費がかからない」というデータがあります。歯科検診を年に3回以上受けている人は医療費が低く、受けていない人と比べて年間で約9万円の差があります。

 「歯の本数と年間の医療費の関係」では、歯が20本以上残っている人は医療費が少ない傾向にあり、残っている歯が0~4本の人と比べるとその差は年に17万5900円にもなります。歯が多く残っているほど体も健康でいられるといえるでしょう。


医療制度の改善も私たちの役割

 政治と経済の悪化によって健康を損なう人がたくさんいます。私たちは患者さんを治療するだけでなく、医療制度を改善させるために「保険で良い歯科医療」を求めて署名活動をしています。要請内容は、①窓口負担の軽減、②保険治療の拡大、③国の予算の拡大です。メーデー会場前や治療室などで署名を呼びかけたり、地方自治体に出向いて署名の内容を説明し要請することもあります。最近の歯科報酬改定ではさまざまな治療が保険でできるようになってきています。

 また、勤医協歯科の5つの診療所では無料・低額診療制度を実施しています。期間は1ヶ月、応急的な治療が基本ですが、お困りの方がいらっしゃいましたら、ご相談ください。

 口から食べることは生きることに直結します。ぜひ、歯を大切にしてください。

 

 

※「歯科酷書」は全日本民医連ホームページで見ることができます。

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