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美しい町を残したい

2020年10月9日

寿都町 核ゴミ誘致に「待った」

寿都町 核ゴミ誘致に「待った」

風力発電の風車が見える寿都湾に漁をする船が行き交います。

「絶対に譲れない問題」
怒りの反対運動広がる


 「寿都町の片岡春雄町長が高レベル放射性廃棄物(核のゴミ)の最終処分場誘致につながる文献調査への応募を検討」。8月13日の北海道新聞の報道に、地域住民から驚きとともに反対の声が広がっています。(渋谷真樹・県連事務局)


 「なぜ寿都なの?なぜコロナで大変な今なの?」。報道を受けていち早く動いたのは、寿都町の基幹産業である水産加工場の若手後継者や観光物産協会です。「風評被害で大変なことになる。自分たちが生まれ育った町を守ろう」と、住民運動などしたことがない人々が立ち上がり、反対の署名をよびかけました。


応募を着々と準備


 多くの人にとっては突然降って湧いたような話ですが、片岡町長は昨年3月から「地域の地盤の安全性について調べていきたい」と語っていることなどから、「ずっと以前から文献調査の応募を視野に、着々と準備していたのではないか」と、寿都町議会議員の幸坂順子さん(日本共産党)は話します。
 今年2月17日に町長は、「NUMO(ニューモ・原子力発電環境整備機構)を招いて学習会を開きたい」と発言。幸坂さんは「核のゴミ処分場受け入れを国に期待させることになる」と反対しましたが、6月に学習会が開催され、8月7日、町議会の全員協議会で町長は応募の考えを明らかにしました。


納得できる説明なし


 片岡町長は当初、盆明けにも文献調査を国に申し入れ、次の段階の概要調査、精密調査を含めて独断で強力に推進していく構えでした。しかし、多くの反対を受けて住民説明会を開きました。町長は応募理由として「財政の危機感」をあげます。しかし現在、ふるさと納税で年間10億円を超える収入や風力発電の利益があり、公共料金値下げやプールの無料化で町民に還元されるなど、差し迫った問題はありません。
 住民説明会に参加した寿都町の秋南斗旗衛さん(くろまつない訪問看護ステーション・看護師)は、「もう誰も町の海産物を買ってくれなくなるでしょう。これまでの信頼やふるさと納税を捨ててまで核のゴミを未来に残したいなんて考えられません。いくら町の施設が立派になっても、住む人がいなくなったら元も子もない。町長はこの町をどうしたいのか」と怒ります。
 9回おこなわれた住民説明会で町長は「核について文献調査に手上げしてからみんなで勉強することが大事」と主張を繰り返します。しかし、「地震も多く、何万年も安全に保管できるとは思えない」「美しい自然や貴重な資源をいかして町づくりをした方がいい」などの声が大きくなっています。


「後戻りできない」


 町内で賛成派と反対派が対立し、これまでの人間関係が壊れてしまうことを心配する声もあります。しかし秋南さんは、「みんな『絶対に譲れない命の問題』と考えているので、発言を控える人は少ないでしょう。3・11やブラックアウトを経験しているから、いくら安全といわれても『何が起きるかわからない』って、みんな知っていますよ」といいます。
 町長は、「調査するだけなので問題ない。経産大臣から文書で『文献調査は処分場制定に直結するものではない』と約束をもらっている」と訴えます。しかし住民から、「調査だけにお金を払って引き下がるなんてありえない。そんな文書は改ざんされ、幌延や辺野古のように引き返せなくなる。町長だけが騙されている」と厳しく指摘されています。


周辺地域でも行動


 「核のゴミ」が埋設されれば周辺地域にも影響します。蘭越町では農業関係者などが反対運動を始めました。島牧村では福島県から移住してきた人たちを中心に「北海道子育て世代会議」が立ち上がり、町長に発言の撤回を求めています。黒松内町では、「南後志の環境を(あらためて)考える会」を設立。8月29日に地域のNPO法人・黒松内ぶなの森自然学校の主催で地域の地層や環境汚染問題について学ぶなど、とりくみが広がっています。
 「考える会」の立ち上げに関わっている、くろまつないブナの森診療所・事務主任の三輪祥子さんは「原発には反対しているけれど、核のゴミ問題はあまり詳しくなく、今回身近に感じたことで問題に気付きました。しっかり学んでいきたい」と話します。看護師の真野三和さんは「核のゴミが近くを通るかもしれません。事故を考えると不安です」といいます。
 高橋琴絵所長は、「当診療所は、泊原発事故が起きた際の受け入れ施設になっています。もし寿都で放射能が漏れたらどうなるのか、考えたら怖い。医療従事者が地域に来てくれなくなるのではないかと心配する町職員もいます」と話します。


大きな世論で阻止を


 「考える会」などの市民団体は、核のゴミ地層処分の危険性を解説するチラシを地域に全戸配布しました。「チラシは多くの人に読まれ、とても注目されています。住民たちから生まれたとりくみをたくさんの力で支えて、大きな世論にしていきたい」と秋南さん。
 黒松内町議会議員の岩澤史朗さん(元黒松内診療所事務長)は、「寿都町議による全員協議会が10月8日にあり、賛成議員が多ければ応募すると町長は断言しています。神恵内村も応募を表明する動きがあります。鈴木道知事は、「特定放射性廃棄物の持込みは受け入れ難い」とする道の条例を遵守するよう求めていますが、文献調査への応募は議会を通さずに町長の判断でできます。署名だけでなく、住民投票を求める動きも出ています。まさに今が正念場。多くの世論で対抗していきたい」と話します。

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